「ヒロさんヒロさん!」長嶋茂雄と広岡達朗の知られざる関係性と“野球の神様”川上哲治との確執
日刊SPA! / 2024年4月7日 15時50分
末っ子だった広岡は、まるで弟を見るような目で長嶋を語る。底ぬけにヤンチャだった長嶋がさぞ可愛かったんだろう。長嶋も「ヒロさんヒロさん」と慕い、チームメイトとは内緒でたまに二人で飲みに繰り出すこともあった。
◆〝野球の神様〟川上哲治との確執
「カワさん(川上哲治)には、入団から引退までずっと虐げられ続けた。もし水原(茂)さんがずっと監督を務めていたら、何度も三割を打ってるよ」
冗談めかして話す広岡だが、内心本気ではないかと感じさせるほど川上とは巨人時代に壮絶な軋轢を生んでいる。広岡と川上の確執の要因は、野球観の相違というより人間性が相容れなかったように思える。
広岡が早稲田から巨人に入団した頃の巨人軍はリーグ三連覇中で、名称と謳われる水原茂監督のもと、チームの大黒柱としてプロ入り一四年目の四番打者・川上哲治が君臨していた。
「一番上の兄貴と川上さんが同じ歳なんだ」
広岡が川上について初めて語るときに発した言葉だ。
一二歳離れた長兄に大層可愛がられた広岡達朗。兄弟の中でも一番大好きだった長兄と偶然にも同じ歳の川上に、何かしらの縁を感じた。一回り上の兄の包み込むような優しさを肌で覚えていた広岡が、川上への距離感を勝手に縮め、憧憬を抱くのも不思議ではない。
「カワさんはファーストの守備が本当に下手だった。『俺はこの辺りしか捕らないからな』と言って、自分の胸のあたりに弧を描く。練習中ならまだしも試合でもその範囲に来た送球しか捕らないんだから。決定的に決裂した日のことは今でもよく覚えているよ。五四年四月二七日の西京極球場での洋松ロビンス戦(現DeNA)で、八対四で勝っていて九回裏を迎えたときのことだった。ピッチャーはベテランの中尾(碩志、通算209勝)さん。俺が一塁に悪送球したんだ。悪送球っていっても大暴投じゃなくて、ちょっとジャンプすれば捕れる球。だけど、カワさんは捕らない。
結局、その次のプレーでもカワさんが捕れる範囲に送球できなくて、一点追加された。そして青さん(青田昇)に逆転満塁ホームランを打たれてサヨナラ負け……。当時は、自分のエラーのせいで負けたから監督や先輩たちに頭を下げても素通り。今だったら、エラーした選手に声をかけないほうが悪いとなるけどね。とにかくゲームが終わってひとりでいると馴染みの記者が来て『えらいことしたね〜』と声をかけられるから『申し訳ないことをしてしまった……』と答えてうなだれていた。これでやめておけばよかったんだが……つい『ファーストが下手クソじゃけ、あれくらい捕ってくれにゃあ野球はできんけぇのぉ』と広島弁で言ってしまった。それが翌日の新聞にデカデカと載って……潮目が明確に変わったのはそこから」
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