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眼球、耳、男性器も…“失った身体の一部”を製作する技術者が、「安い」と言われても料金を変えない理由

日刊SPA! / 2024年4月20日 15時53分

「いろいろありましたよ、ネットの掲示板に『入会金を支払わないと製作しないらしい』という事実無根なことを書かれたり。あるいは、依頼者から『生理中に印象採得(※型をとること)をしてほしい』と言われ、断ったら感情的なメールが来たり。私がこの業界で有名になることで不都合な人が多いことはわかりましたが、それ以上に、私が技術を体得することで悩みが解決する人も多いので、届けるべき人のために製作をするという志はずっと変えずにいます」

◆失った手足のようには動かないが…

 現在、牧野氏は性器エピテーゼについては既製品販売のみを行い、オーダーメイドでは、冒頭に紹介した病気や事故によって身体を欠損した人に合わせたエピテーゼを提供している。

 エピテーゼは外見を繕うが、当然ながら機能は回復しない。それでも求める人が多いことを、牧野氏はこんな視点でみている。

「エピテーゼを作りたい理由を伺うと、多くの人が『傷口を見せて他の人を驚かせたくない』とおっしゃいます。心身ともに本当に傷ついているのは他ならぬご本人ですが、周囲への気配りの言葉がまず出てきます。確かにエピテーゼは失った手足のようには動かないし、装着しても以前のような激しい運動をすれば外れてしまうかもしれません。しかしそれでも、『こんな姿で生きたかった』という形に近づけることはできる。私は自分の技術を提供することによって、その人が望む姿で生きる手伝いをさせていただいています」

 本当に大切なのは外見ではなく中身だとよくいわれる。だが形式とは、そこまで一笑に付せるほど軽いものだろうか。エピテーゼが歪な身体を隠してくれるから、直視に至らず、精神を保っていられる。あるべきものを逸失し、人並みに生きることは難しいと絶望した人たちにとって、エピテーゼは偽物でも代用品でもない。装着したその日から、第二の身体であり、尊厳を支える道標になる。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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