食べっぷりも話題に…川口春奈出演『9ボーダー』が“最近流行りのドラマ”と一味も二味も違う理由
日刊SPA! / 2024年5月3日 15時52分
でもどうやらキャラクターの内面世界はそうでもないよう。『9ボーダー』の大庭七苗(川口春奈)は、『着飾る恋』の真柴くるみ同様に相変わらず、人生にモヤモヤぎみだ。職場での活躍が期待されるのは嬉しいが、「貫禄あるな」といって部長の新浜良則(岩谷健司)からは、29歳のところを30歳だと逆サバ読みされるし、プロデュースする現場店舗でばったり会った元彼(塩野瑛久)からは、「仕事ばっかりじゃ寂しいもんな」といわれてしまう。元彼が待ち合わせていたのが結婚したばかりの妻で、七苗は思わず、別の指につけていた指輪を左手の薬指につけかえる。出世はするが、ぶかぶかの指輪を婚約指輪だと偽り、強がる七苗の人生には、寒風が吹いている。
そんなキャラクターを風通しのいい川口が演じるから味わいがうまれる。元彼の妻がすかさず指輪を見て結婚してるのかと尋ねてくる。七苗は、「まだではありますが、そろそろ近いような、そうでもないような……」となんとも曖昧な返答をする。なるほど、この曖昧な心地よさが、川口の持ち味なのかもしれない。
◆“物語る人”であることが魅力の一つに
川口春奈という俳優の魅力はなんだろう。ぼくは、彼女が絶えず物語る人であることだと思っている。キャラクターのバックグラウンドをさまざまな仕草で丁寧に織り込むだけでなく、キャラクターを演じる川口の背景にも物語る意思があって、それがオーラみたいに広がっている。
川口がちょっと歩きだしただけで、その一歩ずつがポイントとなり、振り返れば、そこにはひとつのプロット(筋)が流れている。みたいな人だと思う。だから、ぼくらはドラマ全体としての物語を楽しみながら、同時に川口の演技レベルで物語られるストーリーを適宜オーバーラップしながら見ている。川口が演じる役柄の味わい深さはおそらく、そのため。
象徴的なのは、共演者である松下洸平の存在。元彼の言葉を気にしてぷらぷら歩いていると、ふと川辺から歌い声が聞こえる。声の持ち主は、謎の雰囲気を醸すコウタロウ(松下洸平)。松下もまた物語る人の代表格みたいな人だ。2008年にシンガーソングライターとしてデビューし、歌心としての気持ちを乗せることに長けている彼は、歌を歌うように台詞を吐く。背景に物語が広がる川口に対して、ボーカルでもある彼の完璧なフレージング感が、マイクに向かわせて常に前へ前へ物語ろうとする。ストーリーとは別に、もうひとつの松下洸平物語を紡ぐのだ。
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