石橋静河の“濡れ場を運動に変換する”資質に驚き。出演作品を見た記者は「現代のロマンポルノ」だと思った
日刊SPA! / 2024年7月2日 15時50分
翌朝、出勤準備でバタバタしている。その日は弁当を作ってある。白米に海苔を敷いて、その上にたらこが1尾乗っている。無造作に置かれていると言った方がいい。薄暗いアパートの台所で、たらこがグロテスクに光る。食べ物を口にした微笑だけでなく、食べ物そのものが生々しく写る。
このたらこ、そのあとの場面のしたたかな伏線になる。急いで出勤しようと、自転車を出す理紀だが、隣人・平岡(酒向芳)がやって来る。自分の自転車を汚しただろうといちゃもんをつけてくるのだ。とにかく急いでいる理紀に対して平岡はしつこい。隙をついて自転車を発進させるが、後ろから追ってくる。弁当は置いてきてしまう。
◆たらこ弁当が伏線に…
その夜、帰宅すると、部屋のドアに弁当がかかっている。中身は、空。平岡がたらこ弁当を食べたのだ。するとドアを何度もノックする音が。外から「次はあんたのたらこ入れてよ」と不気味に連呼する。ゾクッとどころか、ゾッとすり気持ち悪さ。でもまさか理紀が食べられなかったたらこの連想として、卵巣(たらこ)→卵子へ飛躍するとは思わなかった。
これが本作最大のテーマである卵子提供のライトモティーフとなるのだ。理紀が提供するのは、もちろん平岡ではなく、世界的バレエダンサーの草桶基(稲垣吾郎)とイラストレーターの草桶悠子(内田有紀)だが。第3回、プランテの青沼薫(朴璐美)を介してホテルで会食が行われ、初対面した理紀は、報酬1000万円と引き換えに卵子提供契約を結ぶ。その日分として5万円が入った封筒を渡された理紀が、その足で向かったのが(スターバックス的な)カフェ。
持ち帰りで季節限定のドリンクを注文する。手取り14万円のこれまでなら、コンビニのサンドイッチひとつ手が届かなかった。外に出た彼女がドリンク片手に、自撮りするとき、初めて明るい表情で微笑む。微笑みの連動として微細な偏差を表現する石橋静河があまりに素晴らしく、あまりに可愛らしい。おにぎりやたらこなどの食べ物が飲み物へ変わる流動感もいい。
◆身体の微動と心の激動
では、それがどこに流れるかと言うと、5万円を元手に理紀が次に利用するのは、女性用風俗なのだった。待ち合わせ場所にやって来たセラピスト・ダイキ(森崎ウィン)は、なかなかの好青年。すぐにホテルに移動したものの、風呂に入るのをためらい、たどたどしくしてしまう。施術時間がただ過ぎる。理紀が言い放ったのは、「嫌なことは絶対にしないって変ですね。女が身を売るときは命の危険もあるのに」。いきなり本質に迫る。ゾクッとズバッと。
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