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「煙草は一日1.5箱」生活保護を受給する58歳男性漫画家が「後悔はない」と語る理由

日刊SPA! / 2024年10月29日 8時52分

◆煙草があるから外に出たいと思える

 家賃はかからないため、生活保護費は食費や水道光熱費にあて、最低限の生活は取り戻した。いま一日をどんなふうに過ごしているのだろうか。

「一日、ほぼ散歩してます。朝10時に目がさめて、どこでタバコ吸おうかなって考える。俺、持論があって、煙草は健康にいいってこと。煙草があるから外に出たいと思えるし、ニコチンを全身に回らせると、脳が冴えた感じがするんだよな。煙草は一日1.5箱。お気に入りの場所とか、ここで吸ったことないなって場所を探して、お昼にスーパーで弁当を買って食べて、また午後に散歩して、夜用の弁当を探しに隣町まで行く。地元にも同じスーパーあるじゃんって思うんだけど(笑)。でも、ここで買ったっていうのがいいんだよね」
  
◆鬱にならないための“秘策”は…

 そんな加藤さんの日頃の楽しみは「歩きながらぶつぶつ言うこと」だとか。

「わざと聞こえるように。馬鹿だ、変な人って思われても、それを覚悟でやってるよ。ペットショップの犬に話しかけたりね。これやっていると、人と話すきっかけになることもあるんだよ。しゃべるリズムつけてんの。話してないと気が落ちるし、鬱防止で」
 
 人の目よりも自分のメンタルを気にかけるのは、40代の時に一度、鬱を患ったことがあるからだ。
 
「仕事を干されかけて、隔月の雑誌に30枚の原稿を描いてたとき。『惑星スタコラ』っていう複雑で重い内容の作品でさ。ここできめないと終わっちゃうぞ、負けちゃうぞって。俺はここにいるぞってねっちりした濃密な絵を描いてたら、鬱が始まっちゃった。5巻目とかスカスカで絵が描けなくなった。心理が出たね。漫画はドキュメンタリーですよ。

 俺、ヒット作ないから。ずっと“知る人ぞ知る”って言われてきたよね。俺はサブカルにもなれなかった。ガロの根本(敬)さんみたいには、真似しようと思っても無理だったもん。

 最高年収は400万円くらいかなー。生活保護になろうが、漫画家をやっててよかったよ。友達の漫画家が言ってたの。『俺たちって、ペンと紙で紙幣をつくってるんすよ。原稿って、ニセ札なんです』って。そうだよな、それってすごいことだよなって。自分で紙幣をつくれるんだから、あきらめちゃいけないよね。若い子にもどんどん漫画家になってほしいよ」
 
 現在は、某大手漫画雑誌から、読み切り漫画の依頼がきているという。今年中に発表されれば、約9年ぶりの新作だ。人と話すのに飢えているのだろう。話は続き、時刻は23時半を過ぎていた。筆者は帰るタイミングをうかがっていたが……。
 
「俺、明日、誕生日なんだよ」

 終電は諦めた。日付が変わる瞬間をカウントダウンして、拍手でささやかなお祝いをした。「58歳の抱負は?」と聞くと、加藤さんは煙草をプカプカふかせながら「健康!」と答えた。
 
<取材・文/ツマミ具依>

【ツマミ具依】
企画や体験レポートを好むフリーライター。週1で歌舞伎町のバーに在籍。Twitter:@tsumami_gui_

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