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「路上飲み」や「公園飲み」は日本人の伝統!?屋外での飲食にまつわる意外な歴史

TABIZINE / 2021年5月12日 7時30分

tabizine.jp

新型コロナウイルス感染症の影響で、最近は路上や公園でお酒を飲む人の姿を見るようになりました。諸外国では屋外での飲酒が禁じられているところも多いため、なかなか見られない光景ですが、日本人は、そもそもいつから屋外で飲食を楽しむようになったのでしょうか?
京都市円山公園の花見
(C) Sean Pavone / Shutterstock.com
屋外飲食は江戸時代には庶民に定着していた

広重『名所江戸百景』より寛永寺清水観音堂が描かれた「上野清水堂不忍ノ池」。image from Wikipedia

外で飲食といえば、真っ先に花見が思い浮かびます。この花見を日本人はいつから楽しんでいるのでしょう。

例えば玉村豊男編『酒宴のかたち』(紀伊国屋書店)を読むと、徳川幕府の5代将軍・徳川綱吉のころには、江戸(東京)の上野にある東叡山寛永寺の境内(現在の上野恩賜公園)が大混雑して、桜の下に風呂を出し、入浴する者まで現れたと書かれています。寛永寺の境内は、当時から桜の名所として江戸の庶民にも親しまれていたのですね。

同じ江戸時代、京都では鴨川の水辺空間における納涼も楽しまれていました。鴨川の河原に毎晩数千、数万の人が繰り出して、じゅうたんの上に腰掛けを並べ、小料理やお酒、お茶を楽しんだそう。

屋外での飲食は、室内での飲食と開放感が違います。その楽しさは、江戸時代には庶民の間に完全に定着していたと考えられますから、令和の現代に公園で飲食を楽しみたくなる現代人の気持ちは、何ら不思議ではないとわかります。
立場を問わず屋外での飲食は好まれていた

『醍醐の花』(尾形月耕『日本花図絵』)image from Wikipeida

江戸時代に定着した花見や屋外での飲食は、それ以前だと、どのように楽しまれていたのでしょうか。

花見については、定説があります。単純に美しい花の下で飲み食いを楽しむというスタイルを確立した人は、豊臣秀吉といわれています。

何でも派手好きな秀吉です。秀吉が開催した吉野の花見、醍醐の花見では、それぞれ数千人が参加し、無常観などを脇に置いて、素直に桜の下で花の美しさを謳歌(おうか)し、宴会を楽しんだのだとか。

この風習が江戸初期にも受け継がれ、戦国の雰囲気が落ち着くと、武士が花見をするようになります。さらに時代が平和になると、武士の妻子も花見に同行するようになり、幕を張った状態で屋外の飲食を楽しんだのだとか。

その習慣が庶民にも広がり、先ほど紹介した上野のにぎわいに発展していくのですね。
明治以降はヨーロッパで生まれたピクニック文化が入り込む

"A Pic-Nic Party" by Thomas Cole, 1846 image from Wikipedia

もちろん豊臣秀吉よりも前の時代、古代・中世でも、貴族階級とその周辺の人々は屋外での遊楽を盛んに楽しんでいました。

別荘地に遊宴を張り、季節の木々、例えば梅、桜、カエデなどを眺めながら、観梅(かんばい)会、観桜(かんおう)会、観楓(ぷう)会を開き、文学や音楽などの教養をお互いに披露して、遊んでいました。

貴族的な行事の一方で、屋外飲食は農民文化の一部である農耕儀礼、祭りなどの年中行事の場でも発達していきます。

お酒はかつて、自然の恵みから得る、特別な霊力を持つ飲み物だと考えられていました。祭礼では神に捧げてから、その神とつながる意味で、庶民もお酒を口にしました。当然、自然の恵みをダイレクトに感じるために、屋外での飲酒も行われます。

貴族的な行事として屋外での飲食が楽しまれ、一方で農耕儀礼としても楽しまれる、そのうち娯楽としての花見が中世に生まれて、江戸時代には都市文化の誕生とともに大衆化します。

明治以降はヨーロッパで生まれ、19世紀半ばに屋外で楽しまれるようになったピクニック文化も入り込みました。江戸時代から発展してきた半屋外のような空間(ひさし下など)も、オープンカフェなどの文化と融合して、屋外飲食の選択肢として発展し続けます。

この流れが現代にも脈々と受け継がれ、コロナ禍における屋外飲食へと続いているのですね。

テラス席のある飲食店
(C) Photoerngo / Shutterstock.com

とはいえ、もともと屋外での飲酒は、祭りなどコミュニティ全体が特別な状況を迎えた日(非日常)にのみ許された行為でした。

酒が大量生産されるようになり、日常的な飲み物になった現代でも一緒です。旅の文化研究所編『落語にみる江戸の酒文化』(河出書房新社)に書かれている通り、どこまでいっても「酔う」は非日常であり、酔っ払いは平時の社会の中で異質な存在です。

今は新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、非日常の世界が続いています。密が予想されるお店には行ってはいけない状況だからこそ、普段は好ましくないと思われる公園(公共の場所)での飲酒も、どこか許される空気があるのだと思います。

とはいえ、非日常の時代状況であっても、何もかもが許されるわけではありません。ごみを放置したり、夜に酔って大声を出したりすれば、黙認していた人たちから非難の声も当然出てくるはずです。

酔った状態の人は社会の中で異質の存在だという自覚を持ち、節度を保ちながら、感染拡大にも注意して、ガス抜き程度にささやかなうたげを楽しむ姿勢が飲む側にあれば、屋外飲食の気持ち良さは誰もが理解しているわけですから、万事がうまく収まりそうですね。

[参考]
※ 板津木綿子、小澤 智子、北脇実千代著『食と移動の文化史: 主体性・空間・表象をめぐる抗い』
※ 白幡洋三郎『花見と桜<日本的なるもの再考>』(PHP研究所)
※ 第422回 屋外でお酒を飲むことは? - アサヒグループホールディングス
※ 前近代のにぎわいと空間演出-日本におけるキワ空間と人のふるまいを手がかりに- - なにわ・大阪文化遺産学叢書
※ 玉村豊男編『酒宴のかたち』紀伊国屋書店
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