大怪我で消えた盗塁王…西武・若林楽人がその後3年間で諦めたこと 「向き合うの、うまくないんです」
THE ANSWER / 2024年4月26日 10時33分
■2021年の春、パ・リーグを席巻した西武の若林楽人は今
プロ野球で、新人選手の活躍はいつの時代も爽やかな風を吹かせる。ファンはポジション争いの行方に注目し、新たなスターに声援を送る。2021年のパ・リーグにも、そんな選手が現れた。西武にドラフト4位で入団した若林楽人外野手は、開幕早々に定位置を奪い、たった44試合で20盗塁を決める大活躍。ただそこで、怪我のため突然シーズンを終えてしまう。消えた盗塁王はあれから3年が経つ今、何を思うのか。怪我との向き合い方や、選手としての生き方を語ってくれた。(取材・文=THE ANSWER編集部 羽鳥慶太)
プロ4年目のシーズン、若林は今ももがいている。開幕1軍入りを果たしたものの、4試合に出場しただけで登録抹消。「今は本当に、何も気にせずプレー自体はできています」という言葉は、以前は違ったという裏返しでもある。
「痛いとか言わないようにはしていましたけど、昨年までは実際、毎日痛くて……。ボルトが神経に触っていたらしいんですよね。プレー中に力が入らないとか、そういうのはずっとありました」
2021年5月30日の阪神戦。「1番・中堅」で先発した若林は3回、マルテの打球を処理しようとジャンプした際に左膝が悲鳴を上げた。交代し、診断結果は前十字靭帯の損傷。すぐに手術を受けた。リーグトップの20盗塁、打率も.278を記録していたスター候補のシーズンは、突然終わった。あれから、3年が経とうとしている。この期間の経験を問うと、しばし考えた末に言葉を絞り出す。
「向き合うの、うまくないと思うんです。正直、本当にイヤになった時期もありました。ストレスで帯状疱疹になったりもしましたし。いくら説明しても、痛みは自分にしかわからないじゃないですか」
迎えた2年目、1軍には戻ってきたが、28試合出場に終わった。走るとはっきり痛みがあったという。そして昨季も1軍出場は36試合。痛みは軽くなったが、回復が遅かった。オフには患部に残っていたボルトを除去する手術を受けた。今になってみれば「怪我して、復帰するまでを甘く見ていました」と言える。
大怪我を経て、野球への考え方も変わった若林【撮影:羽鳥慶太】
■「前みたいには走れない」前に進ませるのは“多少のあきらめ”
「再発の可能性も高いと説明を受けたんですが、最初は『来年になれば走れるのかな』と思っていたくらいで……。軽く考えていたんです。前みたいに走るためにはどうすればいいかと考えていました」
大活躍の残像は、ファンだけでなく若林の心にもあったことになる。「でも、その状態には戻れなかったのがこの2年間です。武器を取られたという感じで、気持ち的には本当にキツかったですね」。プロ1年目のキャンプで「足で稼げるようになろう」とコーチに声をかけられ、考えたこともなかった自分の武器に気づかされた。そして怪我を経た今、武器を生かすための方法も、かつてのまっすぐ一本槍ではない。
「前みたいには走れない。多少のあきらめも大事だと思うんですよ。前の自分じゃなく、今の自分をちゃんと見られるようにするというか……」
1年目の盗塁王独走は、怖いもの知らずだからこそできた。目の前のチャンスを生かそうと必死だった。プロ野球のシーズンがどれほど長く、過酷なものかわかっていなかったという。
「本当に、120%を出して突っ走った感じでした。怪我して当然だったのかなとも思います。1軍がどんなスケジュールで戦っているのかも全然分かってなかった。ほんとに疲れていても(試合に)行っていたし、行けたんです。体も全然動いたし」。大怪我を経た体は、ただがむしゃらなプレーには耐えられない。武器は一番必要な時に、確実に出せばいい。
「今は多少なりとも考えが変わりました。最近の盗塁王の数字を見ていると、30個くらいで取れるんです。年間出られれば、月5個でいいんですよ」。それをどれだけ、チームのためになるところで決めるかだ。
この道で生きていくための武器と見定めた足を、突然奪われた。日々、野球への考え方も変わったのではないかと聞くと、即答だった。
「変わりました。バッティングで力を入れようとしても、何かかばっているんですね。ちゃんと神経を使って、足の感覚を生かせている気がしない。今までできたことができなくなって、毎日考えなきゃいけないつらさはありますね」。考え抜いた先に“今の自分”がいる。変わるところと変わらないところを見定め、再びグラウンドで躍動してみせる。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)
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