日本バスケ史に名を刻んだ“キング” 敵地に舞った207cmの巨体、「一生の思い出」で現役生活に幕
THE ANSWER / 2024年5月8日 17時3分
■元日本代表ニック・ファジーカス、横浜BC戦でキャリアに終止符
バスケットボールB1リーグはレギュラーシーズン最終節を迎え、川崎ブレイブサンダースは4日と5日に横浜BUNTAIで行われた横浜ビー・コルセアーズとの“神奈川ダービー”に臨んだ。4日の第1戦に98-92で勝利した川崎だが、他会場の結果によってチャンピオンシップ(CS)出場の可能性が消滅。今季での引退を宣言していた元日本代表ニック・ファジーカスにとって、5日の第2戦が現役ラストゲームとなった。
川崎がBリーグでのCSを逃すのは8シーズン目にして初。クラブの歴史上、川崎の前身となる東芝がJBLの2011-12にポストシーズンを逃して以来の出来事だった。ファジーカスが東芝に加入した2012-13シーズン以来、ブレイブサンダースは常にポストシーズンに駒を進めていただけに、彼自身にとっても、最後の瞬間がよもやの形になったことを隠さない。
「(日本での)12年間のキャリアで、何も懸かっていない試合は初めてだったので、いつも通りの集中力があったかと言われれば、なかったのかもしれない。(CSを逃した状況下で)しっかりとパフォーマンスを見せなくてはいけないというのは少ししんどい部分もありました。最後のシーズンがこのような形で終わるとは思っていませんでしたし、残念な結果だったと思っています」
それでも試合では“川崎のキング”と呼ばれたファジーカスが、自らの代名詞とした3ポイントシュートとパスワークを武器に川崎のオフェンスを牽引。10得点8リバウンド5アシストと見せ場を随所に作る。B1史上初となる通算4500リバウンドも獲得したが、試合は川崎が劣勢に立たされたまま進む。現役最後の瞬間が近づいていく様子を、ファジーカス自身も感じ取っていた。
「5000人近くのファンの前でプレーできたことも素晴らしかったですし、ここまでのキャリアを思い返すような瞬間だったと思います。今までチームの中で最も注目され、マークされる選手としてリーグを牽引してきたとは思いますが、衰えたはずの僕の勇姿を見にきてくださったことは、感情的にもなりますし、感謝もしたいです」
「衰えたはず」という本人の言葉は、にわかには信じがたいが、ラストシーズンのファジーカスの成績は、これまで敵味方を問わず、バスケットボールファンが味わってきた得点能力を考えれば、少々物足りない部分も見られた。今季の1試合平均15.9得点、8.7リバウンドはいずれもBリーグでの自己最低の数値。シーズン中盤の1月に負傷したこともあり、Bリーグ開幕以降で最多となる12試合を欠場するなど、明らかにこれまでとは違う戦いでもあった。
「引退による酷な部分として、引退する年というのは、自分にとって一番良くない年になってしまうと思っています。今まで積み上げてきたもののすべてをつぎ込んだとしても、時の流れには勝てないというのが現実だと思います。ここまで自分自身がやってきたように、オフシーズンに体重を落として、コンディションを上げて来季に備えることもできたとは思いますが、絶対に今季より良い結果が出るとは思えない。引退すると決めた時から、飲み込みがたい事実ではありましたが、『今までよりも最高峰の自分を見せられない』というのは、一番厳しい部分だったのかなと思いました」
■人生初の胴上げは「一生の思い出として残っていく」
川崎のラストプレーが近づくなか、川崎はファジーカスの「らしい」プレーを1つ用意してきた。エンドラインからのスローインを受け持ったファジーカスがロングパスをジョーダン・ヒースに通し、相手のディフェンスが追ってきたところでヒースがボールを外に弾き出し、後をついてきた選手が3ポイントシュートを狙う……。これまたファジーカスのお家芸であり、川崎はチーム内でアメリカンフットボールNFLの名選手になぞらえて「ブレイディ」と呼んでいたという。ラストプレーを、川崎・佐藤賢次ヘッドコーチはこう解説する。
「練習からやっていて、いつも狙っているプレーでした。実を言うと、もう少しニックには待ってほしかったんです。もう少し落ち着いて、ジェイ(ヒース)が前を走るまで待ってほしくて。タイミング的には(篠山)竜青ではなく、(藤井)祐眞だったんです。でも、打ちきってくれたので、良かったと思います」
篠山のシュートは惜しくもリングに嫌われ、川崎は79-87で敗戦。シーズン最終戦を勝利で飾ることは叶わなかった。
試合後、横浜BCによるファジーカスへの花束贈呈のセレモニーが行われ、フォトセッションを終えると、篠山がファジーカスに目配せをして、両チームの選手たちが集まってくる。ファジーカス自身が「経験したことはなかった」という胴上げが行われ、207センチ・114キロの巨体が3度宙を舞った。
「竜青が僕のところに来て『日本の文化なんだけど、胴上げ、する?』と伝えてきて。見たことはありましたけど、自分がそこでやることになるとは思っていませんでした。僕の体が上がったのは鎌田選手(裕也/197センチ・115キロ)がいたからこそだと思うし、彼が力強くて、大部分の重さを支えてくれたからだと思います(笑)。妻がこの瞬間の動画も撮っていたそうなので、一生の思い出として残っていくのかなと思っています」
近年の日本バスケを、間違いなく一段と華やかな存在に引き上げたであろう「大巨人」ファジーカス。これからの長い人生の中で、再び日本バスケ界に巡り会うタイミングが訪れることを、今から願ってやまない。(荒 大 / Masaru Ara)
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