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古いものを「再定義」して新たな価値を生む〜まちに必要なものをつくるUDS中川社長に聞く

LIMO / 2019年5月30日 21時15分

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古いものを「再定義」して新たな価値を生む〜まちに必要なものをつくるUDS中川社長に聞く

ストックビジネスの本質(第1話)

最近銀座にできた話題の「MUJI HOTEL GINZA」をご存じですか? 無印良品のブランドを冠したこのホテルは、私が尊敬する経営者である中川敬文社長のUDS株式会社が企画・設計・運営・経営しています。

中川社長は、フロービジネスだった事業から今ではストックビジネスの安定企業に転換し、競合の少ない独自の業界ポジションを確立しています。今回は、日本で最初にコーポラティブハウスを仕掛け、現在ではホテルの運営までを手がけるようになったUDSの中川敬文社長へのインタビューを通して、ストックビジネスのエッセンスをお届けします。

事業領域の拡大と収益構造

大竹:中川さんは多角化の感覚はないとおっしゃっていますが、元々は企画・設計事務所で、設計すれば終わりというフロービジネスから考えると事業領域は広がっていますし、創業時とは確実に違ってストック化がかなり進んだといっていいと思います。現在の収益はどのようになっていますか?

中川:ホテル運営の比率が大きくなってきています。

大竹:ホテル事業の方が、安定した数字がみえる?

中川:ある程度、安定してみえる部分はありますが、ライバルもいるので、そう簡単ではありません(笑)。

大竹:昔はともかく、現在のホテル業界はインバウンドの影響もあり好調というイメージがありますが?

中川:全体的には好調だと思いますが、供給も増えていますので競争は激しくなってきています。

大竹:会社の構成としては、施設が増えると売上が増えて安定するように感じましたが、他にはどのような事業があるのでしょうか?

中川: 飲食ですと文京区にある凸版印刷内のレストラン「小石川テラス」があります。

レストラン「小石川テラス」テラス席(UDS株式会社ウェブサイトより)


大竹:写真を見て行ってみたいと思っていましたが、一般の人も入れるんですか?

中川:はい、入れますよ。実はこの原宿本社の応接スペースも、もともとは自社の社員食堂の一角です。

大竹:もともと社員食堂だったところに売り上げが立つとはユニークですね、それにこんなにお客さんが入っているんですね(14時なのに応接のまわりには遅いランチのお客様であふれていた)。

中川:今では、一般の方が6割以上です。

大竹:他に、特徴ある施設はありますか?

中川:代々木上原にある「NODE UEHARA」は、複合施設として非常に特徴的だと思っています。

大竹:複合施設というと色々な業態が入っているビルのような空間をイメージしますが……。

中川:普通はそうなんですが、上層階は住宅になっています。

大竹:1階がテナントのマンションは多いですが、それはかなり珍しいですね。

NODE UEHARA(UDS株式会社ウェブサイトより)


中川:あとは、東京神保町にある岩波ブックセンター跡地を開発した「神保町ブックセンター」です。これは「書店」「喫茶店」と「コワーキングスペース」という複合施設です。

大竹:本屋ビジネスはかなり分析したことがあって少し詳しいんですが、厳しい業界ですね。

中川:はい、普通に本屋さんでは難しいですね。ですので、コワーキングのラウンジは、著者を招いたトークイベントを開催できるようにしたり、「本の街・神保町を元気にする会」の理事にもなって、地域の皆さんと協力してまちづくりなどに絡めた活動をしています。

神保町ブックセンター(UDS株式会社ウェブサイトより)


大竹:ホテル以外の施設でもまちづくりというコンセプトは変わらないんですね。

中川:はい。神奈川県海老名市にあるRICOH(リコー)の施設「RICOH Future House」では、バーベキューができる地元食材を使ったレストラン「PUBLIE(パブリエ)」や、「コサイエ」というアフタースクールなども運営しています。

大竹:アフタースクールというのは、学童保育のことですか?

中川:学童保育と科学教室の複合施設です。

大竹:これも地域とつながったまちづくりになっていますね。

公的事業という新たなステージ

大竹:まちづくりの成果が認められて地方自治体からのお話もあるということですが、人口減、経済も停滞していく雰囲気のあるなかで、キーワードとしては「地方創生」になると思いますが、具体的にはどのような事業や活動がありますか?

中川:鹿児島県薩摩川内市から企画・設計・運営を受託した「薩摩川内市スマートハウス」は、事業コーディネーターとして次世代エネルギー技術を使った次世代の豊かな暮らし方を、新しいデザインで市民の皆さんにご提案しました。

また、滋賀県からは「ここ滋賀」というアンテナショップ事業の企画・設計・運営を受託して、東京の日本橋で立ち上げました。

大竹:基本はまちづくりですが、本当に多岐にわたりますね。

中川:東京でも「練馬区立こどもの森」という公園事業の委託を受けています。

大竹:公園ですか?

中川:はい、4団体でのJV受託ですが、コーポラティブハウスで培ってきたコミュニティ形成のノウハウなどを活かしています。

大竹:事業を進めていくうえで、まちづくりというコンセプト以外に何かこだわっているところはありますか?

中川:古いものに価値を与えるということは、常に考えていますね。

大竹:やはりそこに着目ですか、私もそこは狙っています。これからも古い不動産のストックは増え続けますから有望です。UDSは、まちなどを定義するのが得意なんですね。

中川:「再定義」は好きですね。建物自体は、リノベーションであったり、新しく建てる場合もありますが、古いものを再定義して、その価値を発信するようにしています。

大竹:再定義はストックビジネスでも重要キーワードです。

中川:でも、学者ではないので「これから世の中こうなります」のようなことは言いませんが、コーポラティブハウスをやっていた当時から、分譲と戸建しかないのは変だと思っていて、再定義して選択肢を増やしていく感じです。

独自の立ち位置

大竹:「どこにいても異業種……」という半分笑い話はおいておくとしても、UDSは、不動産業でも、飲食業でも、観光業でもないながら、全てに関わっているというか、雰囲気も含めてトータルで運営をされるという独自の立ち位置をとっていると感じるんですが、そのあたりはいかがでしょうか?

中川:企画から始まって、実際の設計、完成してからの実際の運営という全てを一気通貫でやれる会社は、多くはないと思います。

大竹:企画、設計、運営というと、携わるのが全く別の種類というか価値観のヒトだと思うんですが、まとまるものなんですか?

中川:「まちづくり」が、会社のコンセプトになっていて社風もそうなっています。ホテルも単なる宿泊業ではなく、地域の核としての拠点という考えに共感するスタッフが転職してきているということもあるかもしれませんが、企画と運営が同僚ということへの違和感はないですね。

大竹:ついつい建物に目がいきがちですが、提供している価値の本質はまちづくりなんですね。

中川:当社の転換のきっかけとなった目黒の複合施設「クラスカ」も、あの地域に集まりつつあったハイセンスなインテリアショップなどと上手く共存しながら、まちの価値を上げることができたと思っていて、実際に地方自治体からのお話もいただくようになっています。

あと、お客様の視点に立つという考え方はよく言われていますが、これは言い換えると「おもてなし」です。これは常に大事にしていて本にも書いてあるんですが、エンドユーザーにとっては、街はあくまでも街であって、住宅とかカフェとかホテルとか建物別には分けて考えていないと思っています。

大竹:確かにそうですね。だから、外からみると多角化経営を推進しているようですが、あくまでもまちづくりをしている。

中川:そうですね、まちづくりというアイデンティティからすると、四方八方感はありません。

大竹:言葉は悪いかもしれませんが、計画的というよりも自然発生的に多角化というべきか事業領域の拡大をしていったと感じていましたが、まちづくりという言葉でくくるとある意味なんでもやれちゃうんですね。

中川:「1人ひとりのプロがチームを創ることで、相乗効果を生む」という意味なんですが、「TEAM UP(チームアップ)」という考え方で会社はまとまっています。

チームを創る「build up(ビルトアップ)」と相乗効果の「upgrade(アップグレード)」という概念が根底にあります。

まとめ

ストックビジネスの本質は収益構造が先々まで見えることと、事業の競争力を失わない仕組みにあります。一つの事業が競争力を維持できるのは今では10年が限界かもしれませんが、そんな事業超短命社会の中でクリエーター集団がいつまでも競争力を失わないための工夫が随所にありました。

今回お届けした中では、会社のコンセプト「まちづくり」と「TEAM UP(チームアップ)」という考え方で会社をまとめて企業としての競争力を維持する中川社長のマネジメントに学ぶ部分が多かったと思います。

では、フローからストックに至る数々の事業を作ってきた中川社長の発想はどこから来るのか? 次回はそのきっかけとなった出来事をお聞きします。

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