軍人の死亡率は市民より低いから軍隊は安全か? 統計を使ったウソのつき方
LIMO / 2019年9月29日 20時20分
軍人の死亡率は市民より低いから軍隊は安全か? 統計を使ったウソのつき方
統計は嘘をつかないが、統計使いは統計を使って嘘をつくから気をつけよう、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は諭します。
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統計は、時として不正確かもしれませんが、嘘はつきません。嘘をつくのは、統計を使って他人を騙そうとする悪徳統計使いです。場合によっては悪徳でない統計使いが、自分自身で統計の使い方を単に誤っているだけ、という場合もありますが(笑)。
因果関係については『警官が多い街には犯罪が多い理由が2つある~統計のウソを見抜く法(https://limo.media/articles/-/13202)』で記しましたので、今回は因果関係以外に気をつける事項について記していきます。
統計は過去の数字だから、バックミラーのようなもの
統計を見ないで物事を論じるのは危険過ぎます。しかし、統計を信じすぎるのも危険です。統計は過去の数字であって、これを見ながら意思決定をするのはバックミラーを見ながら運転するようなものだからです。
たとえばバブル期には地価が高騰を続けていましたから、不動産を担保とした融資は焦げ付きませんでした。借金を踏み倒されても担保の土地を売れば貸出金は回収できたからです。
そこで、貸出を実行したい融資担当者は「昨年の不動産担保融資は全く焦げ付きませんでした。統計を見れば、不動産投資が安全だということは一目瞭然です」と主張したはずです。これに正面から反論することは容易ではなく、多くの不動産担保融資が実施されてしまったというわけですね。
今で言えば、「過去何十年も物価は上がっていないのだから、今後も上がらないはずだ」というのが似たようなものだと筆者は考えています。そこで、過去の物価のデータに影響されすぎないように気をつけています。
「氷に熱を加えても温度は上がらないが、氷が融け終わると急に熱が上がり始める。今がその転換点かもしれない」というのが筆者の現時点での物価に対する考え方です。
グラフにも要注意
下のグラフを見て下さい。3社の中で、一番売り上げが急激に増加しているのはA社なのですが、そう見えますか? 配布資料をじっくり眺める場合はともかくとして、スライドを使ったプレゼンテーションなどで「A社は伸び悩んでいます」などと言われたら、信じてしまいそうですね。
Aは1から2に100%増加しています。Bは10から19に90%の増加です。グラフの傾きが増加率とは異なるので、要注意です。さらに注意が必要なのは、C(10から18へ、80%の増加)が右目盛を使っていて、右軸がゼロから始まっていないことです。統計使いがグラフを使って嘘をつく際の典型的なテクニックですから、覚えておきましょう。
話術にも要注意
「これまでの私の手術は、10回に1回は失敗しています。昨日の手術も失敗でした」という医師と、「私の手術の成功率は9割を誇っています。昨日の手術も大成功でした」という医師と、どちらの手術を受けたいでしょう。同じですね(笑)。
「消費税が増税されたら倹約をするという消費者が7割もいる。大不況が来る」という人がいたら、聞いてみましょう。「消費税が増税されても倹約しない人が3割もいるのですか?」と。消費が7割減るわけではなく、「わずかに倹約をする人が7割、全く倹約をしない人が3割」であれば、心配無用ですね(笑)。
「凶悪犯の犯罪前1週間の食生活を調査したところ、98%の犯人が共通して口にしている危険な食べ物が見つかった。直ちに禁止しよう」と言われたら、賛成しますか? コメですけれども(笑)。
この場合、「凶悪犯は食べているけれども、それ以外の人は食べていない食品」を探す必要があるのですが、それを怠ったから変な結論になったわけですね。
「海の水を一口飲んだら、海の水は減ります。間違いありません。」と言われたら、どうしましょう。間違いではないので反論するのは難しいのですが、そうした議論に付き合うのは馬鹿馬鹿しいですよね(笑)。しかし、実際にはそうした議論も世の中では多いので、要注意です。
母集団の属性に注意
さて、表題の件です。軍人の死亡率は、ほとんどの国で国民全体の死亡率よりも低いはずです。では、軍隊は安全なところなのでしょうか。それは違いますね。
種明かしをすると、軍人は定年があるので、老衰等で死ぬ人がいないのです。したがって、軍人の死亡率は一般国民より低いというわけです。そもそも病弱な人は採用されないかもしれませんし。
本気で軍隊が安全なところか否かを比べるのであれば、「20歳から60歳までの健康な男性」を一般国民と軍人の中から同じ人数ずつ選んで、どちらが死亡者数が少ないかを比べるべきでしょうね。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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