コロナ不況で銀行の貸し渋りは避けられない? 金融危機のリスクシナリオ
LIMO / 2020年7月12日 20時0分
コロナ不況で銀行の貸し渋りは避けられない? 金融危機のリスクシナリオ
新型コロナ不況で銀行が赤字になると、貸し渋りをする可能性がある、と筆者(塚崎公義)は考えています。
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新型コロナ不況の深刻化にともなって、金融危機の発生を心配する人が増え始めているようです。そこで、リスクシナリオとして金融危機を考えるシリーズを記すことにしました。第4回の今回は、銀行の貸し渋りについてです。
バブル崩壊後の金融危機時、銀行は貸し渋りをした
90年代の金融危機はバブル崩壊がもたらしたものでしたが、その際に多くの銀行が貸し渋りをしたことで、多くの中小企業が苦境に陥ったり倒産したりしました。
ちなみに貸し渋りというのは、借り手に何の問題もないのに銀行が融資を渋ることです。たとえば、住宅ローンを申し込んでも断られる場合などです。
さらに問題なのは、貸し剥がしとも呼ばれるケースでしょう。銀行の融資は期限が定められているので、途中で返済を求めてくることは稀でしょうが、事実上の中途返済ということは頻繁に起きているようです。
借り手は、銀行から材料仕入れ資金を借りて製品を作り、販売代金で銀行に返済しますが、同時に次の材料の仕入れ代金も借りるので、結果として借入残高はずっと一定だ、という場合が多いのです。
そんな時に、「既存の融資は期限に回収しますが、新しい融資は実行しません」と銀行に言われたら、材料が仕入れられなくて倒産してしまうかもしれません。
そうなれば、中小企業は銀行を恨むはずです。それは当然のことです。しかし、銀行も意地悪で貸し渋りをしているわけではありません。融資をして金利を受け取るのが銀行の本業ですから、意地悪で断ることなど考えられないのです。
銀行には自己資本比率規制あり
世界中の主な銀行には、BIS規制という条約で自己資本比率規制という規制が課されています。それ以外の銀行にも、国内法で似たような規制が課されている場合が多いようです。
複雑な規制ですが、簡略化すれば「銀行は自己資本の12.5倍までしか融資してはならない」というものです。融資残高の12.5分の1(=8%)までは回収不能になっても銀行が債務超過に陥らないように、という規制なわけです。
銀行の不良債権が増加して決算が赤字になると、銀行の自己資本が減少しますから、融資残高を「減った自己資本の12.5倍」まで減らす必要が出てきます。したがって銀行は、不本意ながら貸し渋りをせざるを得ないのです。
公的資金の注入は、政治的に困難
銀行が貸し渋りをすると中小企業の倒産が増えて景気が悪化し、銀行の赤字が膨らんでさらに自己資本が減る、といった悪循環に陥りかねません。金融危機を防ぐための自己資本比率規制が、金融危機の初期においてはむしろ事態を悪化させてしまう、というわけですね。
そこで、悪循環を断ち切るために、銀行が増資をする必要が出てくるわけですが、悪循環の最中に引き受けてくれる投資家は、なかなか見つからないでしょう。
そうなると、銀行に公的資金を注入する必要が出てきます。公的資金の注入というのは、銀行に増資をさせて政府がそれを引き受けることです。それにより、銀行の自己資本が元に戻るので、銀行が貸し渋りをする必要がなくなる、というわけですね。
ところが、これに対しては世論の反発が強く、容易ではありません。日本のバブル崩壊後の金融危機の時も、米国のリーマンショック後の金融危機の時も、公的資金が注入されたわけですが、いずれも世論の説得に大変苦労したわけです。
倒産した中小企業の経営者が銀行を恨むのは当然のことです。彼らが「銀行を助けるために国民の血税を使うことは絶対に許さない」と言えば、世論はそれを支持するでしょう。それも自然なことです。
読者はすでに、銀行への公的年金の注入によって中小企業が貸し渋りを受けなくなる、ということを知っていますが、普通の中小企業経営者や庶民はそんなことは知りませんから、反対するのは自然なことなのです。
昔読んだ童話に、「手と口が喧嘩した。口ばかり美味しいものを食べてズルいといって、手が食べ物を運ばなくなったのだ」というものがあったと記憶しています。受益者が、自分が受益者であることに気付いていない悲劇というわけですね。悲しいことです。
さすがに日本政府も前回の件で学習したのでしょう。今回は早めに公的資金の注入を法律で定めるようです(金融機能強化法の改正)。銀行が実際に貸し渋りをして、銀行を恨む中小企業が増えてからだと難しいので、銀行が貸し渋りを始める前に法律を作ってしまおう、というわけですね。
そこで、実際に貸し渋りが発生する確率は高くないと思われますが、それでもリスクシナリオとして頭の片隅には入れておきたいですね。メインシナリオではないので、過度な懸念は不要ですが。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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