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横須賀、横浜周辺の異臭騒ぎ。検出結果と発生源の諸説を化学の目で解説

LIMO / 2020年11月29日 21時0分

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横須賀、横浜周辺の異臭騒ぎ。検出結果と発生源の諸説を化学の目で解説

6月から横須賀市周辺で相次いで通報のあった異臭騒ぎ。横浜市内でも「ガスのような臭いがする」「ゴムが焼けた臭いがした」との119番通報が相次ぎ、発生は5カ月で10回、通報は680件を超えています。

その原因は? 発生源はどこなのか? と関心が高まっているものの、特定は困難を極めています。神奈川県が行った大気中の化学分析結果をもとに、その化学的側面と現時点で考えられる発生源などについて考えてみましょう。

異臭大気の化学分析と検出された化学物質

神奈川県環境科学センターは、横須賀市消防庁舎などで採取した異臭大気をガスクロマトグラフ質量分析計(混合物を分離し、それぞれの分子量を測定する機器)を用いて分析。10月14日と15日、および24日と26日に採取されたものの分析確報値を11月4日に公表しています。その後、11月6日にも横浜市で異臭の通報があったようですが、大気採取には至っていません。

これまで4回の分析結果では、いずれもガソリンに含まれる物質(ブタン、ペンタン、イソペンタン)が検出されています。このうち、特に10月26日が高い濃度であり、異臭が感じられなくなったときと比較して90~約200倍の濃度で検出されたとのことです。

10月26日の分析結果では、ベンゼンの濃度が12~13μg/m3と、環境基準値(3μg/m3)より高く検出されました。また、アクリロニトリルについては、2.1μg/m3と国が定める指針値(2μg/m3)よりやや高く検出されています。

上記の5物質以外にも、有害大気汚染物質のうち環境基準値または指針値が定められている物質を分析しましたが、いずれの日も分析結果は環境基準値または指針値を下回る濃度だったとのことです。以上の結果、また異臭を感じた時間が短時間であることから、神奈川県環境科学センターはただちに健康に影響を及ぼす恐れはないとしています。

これらの化合物のうち、アクリロニトリル以外は、すべて炭素と水素からできている炭化水素と呼ばれる有機化合物です。大気中の濃度が高かったブタン、ペンタン、イソペンタンは、炭素の数が4個と5個の炭化水素で、ブタン、ペンタンは炭素が直線につながったもの、イソペンタンはペンタンの構造異性体(分子量が同じでも構造が異なるもの)です。

私たちに身近なガソリンは原油を沸点の違いによって分離することで得られ、常温においては無色透明の液体で、揮発性が高く臭気を放ちます。成分は炭素数4~10の炭化水素の混合物で、ペンタンやイソペンタンはいわばガソリンそのものと言ってもいいでしょう。

では、こうした化合物は身の回りのどんなところで使われているのでしょうか。まず、ペンタン、イソペンタンは沸点が常温から体温の範囲にあることから、遅効性の発泡剤として、たとえばシェービングフォームや発泡式冷却スプレーなどに利用されています。

また、フロンガス(オゾン層破壊物質)に代わって発砲スチロール(高分子化合物のポリスチレンを発砲させたもの、スーパーの惣菜トレイ、トロ箱など)製造の発泡剤や、接着剤や印刷用のインキなどにも使用されています。一方、ブタンは卓上ガス缶やライターなどに使われています。

ベンゼンは原油中にも含まれており、化学物質合成の原料として重要ですが、発がん物質で使用には注意が必要です。かつてガソリンの品質を上げる、すなわちオクタン価(ガソリンの質を表す指標)を上げるために、ベンゼンをガソリンに混入させていましたが、現在は行われていません。

アクリロニトリルは、アクリル繊維や合成樹脂の原料であり、また、かつては味の素の主成分であるL-グルタミン酸ナトリウムがアクリロニトリルから製造されていました。

原因と発生源をめぐる諸説

ここまで神奈川県環境科学センターの分析についてざっくり見てきましたが、最も大きな関心事は今回の異臭騒ぎの原因と発生源です。しかし、現時点において、異臭の原因物質が上記の炭化水素などであると断定されたわけではありません。

なぜならば、ガスクロマトグラフ質量分析計では検知できない、同定(化合物を特定すること)できない他の物質の可能性があるからです。たとえば、今回の異臭騒ぎで硫黄の臭いがしたとの通報がありますが、メルカプタン(硫黄を含む化合物R-SH)は微量でも悪臭を放します。温泉に入った時のあの匂い、硫化水素(H2S)を思い出してください。

とはいえ、ここまでのデータを基に原因と発生源を考えてみましょう。

①石油化学工場、石油タンク、タンカー説

上述の炭化水素類は、石油化学工場で原油から製造・使用されているので、真っ先に考えられる発生源は、安全管理が厳重とは言え、横浜・川崎の湾岸コンビナート(対岸の千葉県も含めて)にある石油化学工場からの漏洩、また、石油タンク、タンカーからの漏れもあるかもしれません。ちなみにタンカー内のガス類は空気中に放出するそうですが、それには届け出が必要です。

神奈川県は、すでに工場や施設の立ち入り調査を実施しているとのことですが、発生源等の特定には至っていません。これらの炭化水素類はガソリン車からも排出されることが、問題を複雑にしています。一方、ベンゼンとアクリロニトリルはガソリンには含まれていないので、扱っている企業の特定は難しいことではないでしょう。

②ガスハイドレート説(地殻変動説)

ガスハイドレートとは、水分子が作る12面体、16面体、20面体のかごの中に、炭化水素ガスがゲストとして取り込まれたシャーベット状の固体物質で、海底深くに存在します。中でもメタンハイドレートが代表的なもので、よく知られています。

ブタン、ペンタンなどがハイドレートを形成しているかどうかは確かではありませんが、海底からこれらの炭化水素が表出しているとすれば地殻に何らかの異常が発生しているかもしれず、そうなれば地震との関係が心配になります。インターネット上では「大地震の前触れ?」などの声がありますが、三浦半島の活断層は異臭の通報があった地点とは一致せず、地震の前兆とは考えにくいようです。

ちなみに、ガスハイドレートが原因であるならばメタンガスが検出されなければなりませんが、今回の分析では検出されていません。ただし、メタンの沸点が低いため、検出不能だった可能性もあります。

ガスハイドレートとは関係なく、地殻変動によって何らかのガスが発生することは考えられます。関東大震災(1923年)の際に三浦半島で異臭が発生したとの記述、阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)でも異臭があったとの報告が気になるところです。

最近では千葉県の九十九里浜で、多くの蛤が砂浜に打ち上げられて騒ぎになっています。海底で異変が起きているのではないかと、大地震の予兆説を唱える向きもあります。

③青潮説

以上の他に、海の青潮説もあります。青潮とは、海底に溜まったプランクトンの死骸が分解されるときに酸素が欠乏し、硫化物を含んだ水が海面に上がり、青白く見える潮のことで、硫化水素が発生します。しかし、炭化水素が青潮で発生するのかは甚だ疑問です。

さらなる分析結果に期待

異臭問題は大いに関心を呼び、ニュースサイトのコメント欄などでは、「原因がわからないというのは怖い」「臭いの元が人工のものか、地中からのものか」「人工的な異臭なら、早く調査して解決してほしい」などと書き込まれています。いずれにせよ原因物質と発生源の特定がまずは急務ですので、さらなる分析結果を待ちましょう。

今回の異臭騒ぎ、普通に生活をしていますと炭化水素と言われてもピンときません。ですが、メタンガス、プロパンガス、ブタンガス、ガソリンなどは日常用語になっています。これらはすべて炭化水素類で、化学の産物そのもの。このように、身の回りは化学物質や化学製品に囲まれているのです。

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