脱炭素で国滅ぶであってはいけない!基幹産業・製造業の構造改革待ったなし
LIMO / 2021年11月7日 8時35分
脱炭素で国滅ぶであってはいけない!基幹産業・製造業の構造改革待ったなし
英国ではCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が開催され、世界中で気候変動対応に意識が向いている。また、気候変動の影響は先進国、新興国などにかかわらず、その対応策に対しては待ったなしの状況である。
日本においても気候変動に対しての動きは確認できる。2021年10月22日に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」。その中で策定されたわが国のカーボンニュートラル、いわゆる脱炭素を目指した内容は各産業や企業に影響を大きく及ぼすものだ。
しかし、この状況に関して企業の一部の経営者や経営企画担当者が敏感に反応しているにとどまっている印象だ。今回はその閣議決定の中で、特に製造業がどのような影響があるのかについて考えてみたい。
我が国の産業からの温室効果ガスはどの程度か
同閣議決定の資料から産業別の二酸化炭素排出量をみてみよう。
産業部門のエネルギー起源二酸化炭素排出量は2019年確報値で3億8400万トンである。その内訳は以下のとおりである。
鉄鋼業:1億5500万トン(40%)
化学工業:5600万トン(15%)
機械製造業:4000万トン(10%)
窯業・土石製品製造業:2900万トン(8%)
パルプ・紙・紙加工品製造業:2100万トン(5%)
食品飲料製造業:2000万トン(5%)
プラスチック・ゴム・皮革製品製造業:1000万トン(3%)
繊維工業:810万トン(2%)
他製造業:2100万トン(5%)
非製造業:2400万トン(6%)
このような内訳となっている。
鉄鋼業と化学工業で産業の二酸化炭素排出量の半分以上を占める
この内訳をみると、鉄鋼業と化学工業で半分以上を占め、その製造プロセスから致し方ないという印象、果たしてこのプロセスを電化できるのか、また生産工程上避けられない二酸化炭素の排出をCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)などで対応できるのかといった疑問が出てくる。
この点に関して、同閣議決定のレポートでもすでに把握しており、以下のようにコメントしている。
高温の熱利用や還元反応などの化学反応によって発生する大量の二酸化炭素排出の存在である。金属や化学、セメント産業をはじめとする多排出産業の多くは、数百~1千℃を超える高温の熱利用が必要である。そのエネルギー源となっている化石燃料は多くの場合、経済的・熱量的・構造的な理由によって容易に二酸化炭素フリー電力等によって置き換えられない。さらに、還元などの化学反応については、既存の工業プロセスを前提とする限り、原理的に二酸化炭素の発生は避けることができない。
よほどの技術革新がない限り、日本国内での生産量を大きく引き下げるといった状況という、あまり考えたくないシナリオなしでは、大きくは二酸化炭素排出量を引き下げるということが難しいというメッセージがうかがえる。
また、同閣議決定レポートは続く議論も先読みする形で、この製造を国内から海外に移した際のケースも次のように想定している。
輸出入を通じた海外との取引が可能であるため、国内で生産の減少とそれに伴う温室効果ガス排出量の減少が生じても、その分の生産を他国に移転すれば、そこでの生産とそれに伴う排出を増加させることとなり、地球規模での根本的な課題解決に資さず、むしろ国内で一層効果的な排出削減を図りながら生産を継続した方が有効である可能性もあるという点についても留意が必要である。
繰り返しになるが、生産量を仮に一定にしながら二酸化炭素排出量を削減しようとすると、生産プロセスの変更やCCSの展開が必要となる。ただ、こうした施策も直接的な二酸化炭素排出量を減らすことはできても、それらを維持するための電力が必要で、その電力の電源は何かというループに陥ってしまう。
国内の産業界の対応はどうか
一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)も2020年6月に「チャレンジ・ゼロ」を開始している。
脱炭素を目指して、二酸化炭素排出量を、「省エネ」「燃料転換・新エネ」「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」、またグリーンファイナンスや技術の海外展開支援などを通じて、「ネット」でゼロエミッションを目指している。
こうした中では、省エネ、燃料転換・新エネ、CCUSの順にベースライン(特段技術進展がなく、排出削減対応も取らない場合の排出量)に対して削減量を積み上げていかなければならない。
脱炭素か企業収益のジレンマなのか
先ほども触れたように、生産量が減少するような状況になれば、それに比例する形で二酸化炭素排出量も減少するであろうが、生産量の減少は、特に製造業の場合には売上高の減少にもつながるし、また生産設備のキャパシティが一定の場合には稼働率の低下も招き、収益にとっては大きくマイナスに働く。
経団連を中心とした「チャレンジ・ゼロ」は今後も努力は続いていくであろうが、パリ協定における2030年、2050年という時間軸においては、日本の産業構造そのものを転換していく必要があるのではないだろうか。
10年後、20年後と時間を経るにしたがって、少子高齢化というトレンドもあり、国内の産業構造をそのまま維持していこうというのにも無理がある。こうした観点からさらに議論が進む必要があろう。
参考資料
閣議決定「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(http://www.env.go.jp/earth/chokisenryaku/mat04.pdf)
チャレンジ・ゼロ「チャレンジ・ゼロとは」(https://www.challenge-zero.jp/jp/about/)
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