どうなる部活改革?地域移行で「ブラック部活」は本当に撲滅するのか
LIMO / 2022年7月20日 17時50分
どうなる部活改革?地域移行で「ブラック部活」は本当に撲滅するのか
教員が部活動の顧問をするという常識が大改革へ
中学校や高校生活を語る上で外せないのが部活動です。いよいよ夏休みに入りますが、毎日が部活動という方も多いのではないでしょうか。
文部科学省では部活動に関して「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」としており、基本的に部活の入部は強制ではなく生徒一人ひとりの判断で入部するというのが大前提になっています。
しかし、現実には多くの生徒が何かしらの部活に所属しています。その中でも、長時間の練習が当たり前のように行われている部活は「ブラック部活」と呼ばれ、過去には行き過ぎた指導や体罰を苦に生徒自らが命を絶つ痛ましい事件が起きているのも事実です。
その一方で、土日部活動の指導を行う顧問の教員側にとっても休日がとれず、長時間労働を強いられている問題点も指摘されてきました。
さらに、地方の過疎化が進む地域では部員が集まらず大会に出られないということで、大会に参加するために近隣の複数の学校の合同チームが結成されることも珍しくありません。
こうした様々な問題を解消すべく、文部科学省が中心となり、学校主体の部活動運営を地域に移行する大改革が行われようとしています。
2023度より部活動の地域移行がスタートする
文部科学省は、2020年に「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」を発表しました。その中には部活動改革のスケジュールが盛り込まれ、段階的に学校から地域に移行する案が提示されました。
それを受ける形として2022年6月にスポーツ庁から「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言」が公表され、国による部活動改革が始動しようとしています。
対象となるのは主に公立中学校の運動部です。まず、2023度より段階的に休日の部活動に関して地域移行が進められ、2025年度末までの移行完了を目標にしています。
また、地域によっては平日の部活動についても更なる地域移行を進めていくとしています。これまで勝利主義に傾きがちな大会運営の見直しも含んでおり、部活動を巡る一大転機となる改革です。
「部活は学校で行うもの」「教員が部活動の顧問をする」という考えが定着している中、全国一斉に進められるまさに一大改革です。
受け皿となる地域のスポーツ団体との協議や実施はもちろんのこと、専門知識を持つ指導者の確保といった課題もあります。
また、生徒の多い地域と少ない地域では解決すべき問題点も異なります。地域のスポーツ施設の充実に差もあります。全国一律で歩調を合わせて進めることは難しく、自治体により取り組み方を構築していく必要があります。
とはいえ、学校以外との繋がりを持つようになれば人目に触れる機会が増えます。ブラック部活になりやすい閉鎖的な環境が取り払われていく効果も期待できます。
「ブラック部活」実は文化部にも
部活動は子ども自身が関心のある部活に入会し、活動を通じ向上心や仲間との連帯感を深め、授業とは違った意味での「学びの場」という側面があります。
けれど、試合や大会で勝つことが目的になる勝利主義の弊害で、連日長時間の練習が行われたり顧問やコーチの体罰、先輩のしごきといった問題も度々メディアで報道されています。
「ブラック部活」というと運動部のイメージが強いですが、文化部の中、とくに団体競技に分類される合唱部や吹奏楽部は、運動部と同様にハードな練習が行われることがあります。
2018年、千葉県柏市の公立高校の吹奏楽部に所属していた男子学生が、長時間の練習を苦に自殺したという第三者委員会の報告書が2022年3月に公表され、物議を醸しました。
長時間の練習や土日も休みなく部活動が行われるというと、運動部が真っ先に思い浮かびますが、文化部でも「ブラック部活」が存在していることを表す痛ましい事件でした。
文化部は大会や校外でのイベントを除けば学校外で活動することは稀であり、基本的に学校内で練習が行われています。
文化庁でも運動部同様に部活動の地域移行を目指し、検討会議が行われ今年8月中に正式な提言公表の動きが出ています。
地域移行が難しい文化部
文化部にとっての地域移行の道筋は、スポーツ部以上に難しいものがあります。
例えば、吹奏楽部が休日に学校以外で練習するとなると、地域の音楽ホールまで楽器を運搬する労力や借りるための費用が発生し、負担が増えます。
合唱部の場合も、練習を地域の施設で行うには他の学校と練習時間が重ならないように予約するなど、事務手続きが増えます。
休日の部活動は拠点校に集約して行うという提言もされていますが、その場合も「拠点校までの距離」という移動距離の差も発生します。吹奏楽部であれば、楽器を持参しての移動になるため必然的に車での移動となります。
さらに、指導者に関しても課題はあります。教員以外の指導者を探す場合、社会人向けの講座で教えたり地域の音楽サークルで指導したりする方もいるため、ハードルは高くないようにみえます。
地域や民間のカルチャースクールでも、合唱団といったクラブは存在しています。
しかし、小学校でのスポーツ少年団や地域のスポーツ団体のように学校の教員以外の指導者が長年、子ども達を指導しているような土壌が全国各各地で確立されているとは言い難いです。
地域移行を実現することで、地域の楽団や合唱団の練習といった活動の広がりも期待できますが、理想と現実のギャップが大きく根本的な改革に至るには時間かかると考えられます。
外部との接触でブラック部活は消えるか
外部の接触がほぼなく閉鎖的で、絶対的な指導者の存在がブラック部活の温床になっていました。
今回の文部科学省やスポーツ庁を中心に進められている、地域移行という部活改革は、少子化対策そして教員の負担軽減だけでなく、遠回しにブラック部活撲滅にも繋がります。
運動部に関してはスポーツ庁が明確に道筋を立てています。文化部の方でも円滑な地域移行の計画を公表し、携わる教員や子どもにとってより良い部活動へと変化していくことを期待したいですね。
参考資料
文部科学省「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革のスケジュール」(https://www.mext.go.jp/sports/content/20200902-spt_sseisaku01-000009706_1.pdf)
文部科学省「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言の概要」(https://www.mext.go.jp/sports/content/20220606-spt_oripara01-000023182_01.pdf)
文化庁「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/geijutsubunka/sobunsai/92497901.html)
文化庁「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」の送付について(https://www.bunka.go.jp/seisaku/geijutsubunka/sobunsai/pdf/92497901_04.pdf)
文化庁「文化部活動の地域移行に関する検討会議提言(案) 」
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