米国での銃乱射「週に5件」の異常事態でも規制が進まない理由
LIMO / 2018年5月31日 20時20分

米国での銃乱射「週に5件」の異常事態でも規制が進まない理由
ビジネス、今日のひとネタ
5月18日に、米国テキサス州サンタ・フェの高校で、同校在籍の17歳の容疑者が、生徒などに散弾銃や拳銃を発砲し、10人が死亡、10人が負傷するという痛ましい事件がありました。
ただこの事件は、ある意味で、米国ではそこまで「特別な事件」ではなくなってしまっています。国内の銃関連事件をウォッチしているサイト「Gun Violence Archive」によると、2018年に入ってから、現地ではなんと106件もの銃乱射事件が起きているというのです(5月29日時点)。これは「1週間に5件以上」という驚くべきペースです。
なぜアメリカでは、これほど多くの事件が起きているのにもかかわらず、抜本的な銃規制が行われないのでしょうか?
銃の生産量は10年で2倍超に!
日本ではあまり知られていませんが、米国での銃の生産量は、ここ10年で2倍以上にまで増えています。このデータを見て、「アメリカ人は銃規制を望んでいないから銃を買っている」と考える人もいるかもしれませんが、そうではありません。
実際はむしろその真逆で、効果的な銃規制が行われないから、自分たちで銃を購入して、「自分の身は自分で守る」必要があるのです。実際に、ニュースで大きく取り上げられた銃乱射事件の後には、銃の販売が急増したという事実もあります。
この需要に応じて、銃は誰にでも手に入れられるものになりつつあります。米国の小売最大手のウォルマートでは、ライセンスがあれば30ドルほどの低価格からの購入が可能です。
警察に頼りたくても頼れない
上記のように、アメリカには「自衛」の意識が強くあります。そして、この意識にさらなる拍車をかけるのが「国土の広さ」です。
つまり都市部を除けば、たとえ警備会社や警察を呼んだとしても、すぐに来てもらうことは難しいのです。地域住民が協力して自衛する「ネイバーフッドウォッチ」という組織もありますが、凶悪な銃乱射事件に対しては、これだけでは不十分だという声もあります。
またアメリカの南部や中西部には、親子で銃を持って野生動物を狩りに行くという文化が根づいているといいます。そのため、銃という存在が身近になってしまい、発砲への抵抗が薄れているという見方もあります。ただ、この文化はあくまで保守的な地域での話であり、リベラルな地域では、こういった文化はほとんど見られないようです。
憲法が規制への足止めに!?
そして、効果的な銃規制が行われない最大の理由となっているのが、合衆国憲法修正第2条に掲げられている「武装権」です。
条文には「規律ある民兵は自由な国家の安全にとって必要であるため、人民が武器を保持し、また携帯する権利は、これを侵してはならない」と書かれており、この「規律ある民兵」に個人が当てはまるという考え方が、銃規制への足止めとなっているのです。
これに基づけば「もし規制されるなら、それは人権の侵害だ」ということになってしまうのですね。
オバマ前大統領が嘆いた「強大な壁」
400万人以上の会員を抱え、米国有数のロビー団体となっている全米ライフル協会(NRA)などは、この考え方を強く主張しています。
NRAは銃規制反対派のキープレイヤーであり、莫大な資金力を持つとともに、共和党の有力支持団体であるため政治への影響力も強力です。銃規制推進派だったバラク・オバマ前大統領は、共和党が多数を占める議会の反対にあって在任中は有力な銃規制をほとんど実行できず、NRAの議会への支配力の強大さを嘆いたといいます。
一方で、ドナルド・トランプ現大統領は、2016年の大統領選挙ではNRAから30億円以上にも上る支援を受けています。今年2月にフロリダ州の高校で死者17人、負傷者17人を出す悲惨な銃乱射事件が起こったのをきっかけに、銃規制推進デモや世論が大きく盛り上っているのを受けて、「銃規制やむなし」という方向に傾くかと見られていたトランプ大統領ですが、11月の米国議会中間選挙を半年あまり後に控えて、NRAから強烈な圧力がかかったといわれています。
一筋縄ではいかない現実
実際、5月4日にテキサス州ダラスで行われたNRAの年次総会では、トランプ大統領はマイク・ペンス副大統領とともに演説し、「憲法修正第2条は、私が大統領である限り決して攻撃させない」と規制強化をあっさり否定。加えて、相次いで起こっている学校での銃乱射に対しては、「教師を武装させるべきだというNRAの意見を支持する」と述べました。ちなみにNRAの年次総会で現職の正副大統領が演説するのは史上初めてとのことです。
このように、アメリカで銃規制がなかなか進まない背景には、日本人にはそれほど馴染みのない歴史的・政治的なもろもろの要因が複雑に絡み合っていて、一筋縄ではいかないのが現実です。ただ、完全な規制はできなくとも、銃購入者の制限強化など適切な措置によって、少しでも不幸な銃乱射事件が減ってほしいと切に願います。
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