「発送電分離」4月に迫る:電力株の投資判断(上)
トウシル / 2020年2月19日 7時54分
「発送電分離」4月に迫る:電力株の投資判断(上)
●電力自由化、総仕上げへ。4月に発送電分離
2020年4月から、発送電分離が実施されます。これが、20年以上かけて進められてきた「電力自由化」の総仕上げとなります。なんのことかわからない方のために、まず、電力自由化の全体像を解説しましょう。
電力事業には、「発電事業」「送電事業」「配電事業」「電力小売り事業」の4つがあります。欧米では1980年代から電力自由化が進められてきましたが、日本では長年にわたり、電力事業は、10社の地域電力会社(北海道、東北、東京、北陸、中部、関西、中国、四国、九州、沖縄の10電力会社)によって独占されてきました。発電・送電・配電・小売りの4事業が、10の地域ごとに、地域独占会社によってすべて独占されていたわけです。
電力供給の安定性を確保するために、独占によって電力会社の収益・財務を安定させることが優先されていたと言えます。確かに、日本の電力ネットワークは堅固で、欧米に比べると長期・大規模停電などの問題を起こしにくくなっています【注】。
【注】日本の電力ネットワークの安定性について
近年、設備の老朽化によって、電力ネットワークの安定性が損なわれる問題が増えています。たとえば、昨年は台風19号の被害によって千葉県で長期・大規模停電が起こりました。設備の老朽化などの問題が指摘されています。それでも、海外の電力ネットワークと比較すると、日本が安定性で優位なことは変わりません。
一方、日本の電力料金が海外に比べて高止まりしていることが、日本の競争力をそいでいる面もあります。電力事業を自由化し、新規参入を増やすことで、電力料金の引き下げをはかる必要があると考えられてきました。
そこで、以下の工程表で、電力自由化が進められてきました。4月に実施される「発送電分離」はその総仕上げとなります。
◆1995年12月:電気事業法改正、発電事業を自由化→発電事業へ新規参入促進
◆2000年3月:大口需要家向け、電力小売りを自由化→大口需要家向け電力料金の引き下げを促進
◆2016年4月:電力小売りを完全自由化→一般家庭向けの電力料金引き下げを促進
◆2020年4月:発送電分離
●発送電分離が必要な理由
発電事業への新規参入が認められ、電力小売りも完全自由化された時点で、形の上では、電力自由化は完成しているとも言えます。
自由化によって競争を促進すべきなのは、発電事業と電力小売り事業までだからです。送電・配電事業は、自由化が予定されていません。仮に自由化しても、巨額な設備投資が必要な送電・配電事業に新規参入する会社は現れないと考えられます。
ところが、形だけ自由化しても、既存の電力会社が強すぎるので、発電・小売り事業への新規参入は思うように増えていません。さらに競争を促進するために、「発送電分離」が必要と考えられています。
既存の電力会社から、送電・配電事業を分離し、発電事業と小売り事業を新規参入業者とイコールフッティング(条件を同一)にすることが、競争促進に必要と考えられています。
●送電・配電事業の将来像について(筆者私見)
前述のとおり、新規参入を増やして競争を促進すべきは発電・電力小売りまでです。送電・配電事業は、逆に独占を進めた方が効率的です。現在、10の電力会社が地域ごとに分かれて送電・配電を行っていますが、全国で細切れに分かれたネットワークは非効率です。地域ごとの電力過不足を機動的に調整するためには、送配電事業は1社か2社に集約した方が良いと考えます。
私は、東日本・送配電会社(仮称)と、西日本・送配電会社(仮称)の2社に集約するのが最も効率的と考えています。東西で周波数が異なるので、周波数の異なる2つの地域ごとに独占させる案です。
送電・配電は、独占させるとともに、安価な料金で第三者に開放することを義務づける必要があります。電力供給の安定性を損なわないことが優先されるのは言うまでもありませんが、電力需給の安定性を損なうことが明らかでない限り、新規参入業者は自由に送配電網を借りられることが保証されるべきです。
この考えは、我が国の通信ネットワークの維持管理システムを参考にしています。通信ネットワークと電力ネットワークでは、質的に異なる部分がありますが、1つ重要な共通点があります。全国細切れのネットワークでは効率が悪いことです。
通信を利用するあらゆるビジネスにとって、網の目のように張り巡らされたNTTの短距離固定通信網が生命線となります。この短距離網(ラスト・ワンマイル)を利用しないことには、携帯電話サービスもいかなるインターネットサービスも成立しません。
その短距離網は、NTT東日本とNTT西日本の2社に事実上、独占されています。短距離網の運営会社が、電力産業のように全国に10社もあったら、ネットワークの運営が極めて非効率になるからです。そうならないように、旧電電公社の分割民営化の際に、短距離網の運営は2社に集約しました。
その代わり、単距離通信網を、第三者に開放する義務が課せられています。その上で、インターネットを利用したさまざまな成長企業が生まれています。
以上、発送電分離について、解説しました。明日、これを踏まえて、電力株の投資判断について書きます。
(窪田 真之)
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