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水素関連株に改めて注目:参考銘柄と投資戦略

トウシル / 2021年8月3日 7時50分

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水素関連株に改めて注目:参考銘柄と投資戦略

2020年12月に水素関連株ブームが起こった理由

 2020年11月3日米大統領選でバイデン大統領が勝利してから、世界的に「脱炭素」関連株のブームが起きました。

 米大統領が、脱炭素を否定して化石燃料産業の復興に力を入れていたトランプ元大統領から、脱炭素を重要な政策の柱とするバイデン大統領に代わるインパクトは、世界全体にとってきわめて大きいからです。

 2020年12月には株式市場で、バイデン政権への期待から、脱炭素関連株が一斉に上昇しました。水素エネルギーの活用は、脱炭素の重要な柱の1つなので、水素関連株も買われました。
米国は、バイデン大統領が就任してすぐの2月19日、トランプ元大統領が離脱したパリ協定(CO2排出削減を目指す国際協定)へ復帰しました。米国が脱炭素陣営に加わったことで、世界的に脱炭素の流れが加速することが決定的となりました。

 米国に加え、自動車や石炭火力からの排ガスによる大気汚染が深刻な中国やインドなど新興国も、脱炭素の目標を示すようになりました。

 これには2つの理由があります。

【1】化石燃料を燃やし続けることが、大気汚染や地球温暖化などの環境破壊につながっている事実を無視できなくなった。
【2】太陽光や風力を活用した発電技術が格段に進歩。自然エネルギーによる低コスト発電が可能となってきた。

 近年の技術革新で注目すべきは、自然エネルギーによる発電コストの低下です。

 かつて自然エネルギーによる発電で、発電コストが低いのは「水力発電」と「地熱発電」だけでした。それ以外はコストが高く、政府などによる補助金がないと育成できないと考えられていました。しかしそれは、今では昔話です。

 近年は、発電コストの低下で、商業ベースで流通させられる自然エネルギーが増えてきました。たとえば、太陽光発電は、政府による補助金が無くても、商業ベースで流通させられる「グリッド・パリティ」を達成しつつあります。洋上風力なども、コスト競争力が高まっています。

水素関連株は一時の熱狂が去り、調整中

 2021年に入り、脱炭素関連株を一斉に買い上げる熱狂はいったん覚めました。

 ただし、折に触れて、脱炭素関連株を買う流れは続いています。機関投資家が、投資基準としてESG(環境・社会的責任・ガバナンス)重視を鮮明にし始めた影響も出ています。世界的に化石燃料ビジネスの比重が高い企業が売られ、脱炭素ビジネスを推進する企業が買われる流れは続いています。

 ただ、そうした流れの中でも、水素エネルギー関連株はやや人気の圏外になりつつあります。
なぜならば、水素エネルギービジネスは、今はまだ先行投資期だからです。将来のために、たくさんの企業が赤字でも歯をくいしばって、水素事業に投資しているところです。利益を稼ぐビジネスになるのに、まだ5年10年かかるかもしれません。あるいはもっと長くかかるかもしれません。

 水素関連株として株価が大きく上昇し、その後も堅調な値動きを続けているのは、トヨタ自動車(7203)くらいです。昨年12月に発売した燃料電池車新型MIRAIへの期待が強いことに加え、既存のガソリン車事業で高い収益力を有していることが評価されています。

 それ以外の水素関連株は、熱狂が去ってやや調整色が強まっています。

日本の水素関連6社合成株価と日経平均の動き比較:2020年11月3日~2021年8月2日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成。2020年11月3日の値を100として指数化。水素関連6社は、トヨタ自動車・ENEOS HD・川崎重工業・岩谷産業・トーヨーカネツ・三菱化工機

水素関連株との付き合い方

 これから水素エネルギーが、第4次産業革命(ITによる技術革新)とともに、株式市場で注目される重要テーマになると思っています。そのテーマに乗る株を買ったらもうかりそうに思うかもしれませんが、それがそう簡単ではありません。

 水素エネルギーは、付き合うのがとても難しいテーマです。なぜならば、今はまだ先行投資期だからです。将来のために、たくさんの企業が赤字でも歯をくいしばって、水素事業に投資しているところなのです。

 利益が出るのは遠い将来だが、大きな夢がある「水素関連株」とどう付き合ったら良いのでしょうか? 以下、2つの方法が良いと思います。

【1】下がったところで買い、上がったら売り

 水素関連株の人気が去って株価が下がっている時に少しずつ買っていきます。そして何かのきっかけで水素が人気テーマとなり、株価が勢いよく上昇していく時には、少しずつ売っていきます。

 赤字のテーマ株は、株価が急騰している時ではなく、株価が下がっている時に少しずつ買うのが良いと思っています。

 私がファンドマネージャーの時、東証マザーズのバイオ株など、赤字の成長株は下がっている時に買い、上がったら売りの繰り返しでした。バイオは、何度でも繰り返す重要テーマなので、人気が無い時に買って辛抱していると、定期的にブームがやってきました。水素関連も、そのような動きになると思っています。

 今、水素関連株の多くは株価が調整中なので、少しずつ買っていく局面と思います。

【2】水素以外の事業でしっかり利益が出ている株に長期投資

 水素事業では利益が出ていなくても、水素以外の事業でしっかり利益を出していれば、理想的です。「夢はあるが利益がない」水素事業と、「夢はないが利益が出る」事業がうまく組み合わさった会社が理想的です。

 トヨタ自動車(7203)はその良い例です。ガソリン車で大きな利益を稼いでいます。燃料電池車MIRAIで利益が出なくても、気になりません。ただし、ガソリン車事業の利益変動が激しいので、ガソリン車事業の利益変動には気をつける必要があります。

 ENEOS HD(5020)も、同じです。水素ステーションでは利益が稼げていませんが、総合エネルギー企業として安定的に利益を出し、予想配当利回りが4.7%(1株当たり配当金22円を8月2日株価469.7円で割って算出)と高いので、高配当利回り株として長期投資する価値があると判断しています。

水素関連株にもいろいろある

 先程、水素関連6社として、合成株価を作成するのに使ったのは、以下6社です。ただし、以下の6社がすべて買い推奨ではありません。水素エネルギー推進のために重要な役割を果たしている企業として紹介します。

水素関連6社

コード 銘柄名 株価:円
8月2日
水素関連事業
7203 トヨタ自動車 10,030.0 燃料電池車 MIRAI
5020 ENEOS HD 469.7 水素ステーション
7012 川崎重工業 2,325.0 水素発電・水素製造流通
8088 岩谷産業 6,500.0 水素供給網
6369 トーヨーカネツ 2,443.0 水素タンク
6331 三菱化工機 2,476.0 水素製造装置
出所:楽天証券経済研究所が作成

 一口に水素関連株と言っても、実はいろいろあります。私が長期的に注目しているのは、未来のエネルギー循環社会を作るのに貢献する「水素エネルギー関連株」です。

 ただ、困ったことに水素エネルギー事業はまだ利益が出ない上に、それ以外の事業でも苦戦している企業が多いのが実態です。

 たとえば、川崎重工業(7012)。水素を作る・運ぶ・貯める・使うあらゆる側面で重要な貢献をしています。水素エネルギー関連株というならば、川崎重工業は本命の1社です。

 圧縮水素を流通させる技術を持ち、水素運搬船・水素運搬車・水素貯蔵タンクを手掛けています。オーストラリアに豊富に存在する褐炭(低品質の石炭)から取り出した水素を、日本に持ち込む事業にも関与しています。水素発電の技術開発も行っています。

 しかし、私は川崎重工業に今、長期投資したいとは思いません。本業の収益が構造的に不振だからです。

 ただし同社は、鉄道車両・航空機・船舶・二輪・ガスタービン・油圧機器・産業用ロボットなど、人類にとって重要な技術を幅広く持ち、人類にとってとても大切な仕事をしている会社だと思います。

 短期投資ならばやってみる価値はあると思います。今年、景気回復がさらに進めば、利益回復が見込まれるからです。

 もし、短期投資ではなく、長期投資を考えるならば、当面は水素ビジネスに注目しつつも、水素以外のビジネスでしっかり利益をあげていく銘柄を選ぶべきです。上記に挙げた銘柄でいうと、トヨタ自動車、ENEOS HDが投資対象として有望と判断しています。

 トーヨーカネツ・三菱化工機は、足元株価の調整幅が大きいので、次に水素がテーマで盛り上がる時を見込んで、今少し買ってみてもおもしろいと思います。

水素エネルギーが脱炭素の切り札になる理由

 水素エネルギーについて基礎的な説明をしていませんでしたので、最後に「なぜ、水素エネルギーが脱炭素の切り札」なのか解説します。

 人類はこれまで、化石燃料から得られるエネルギーを使って経済を成長させてきました。しかし、化石燃料は有限で環境に悪影響もあることから、いつまでも化石燃料に頼った成長を続けるわけにはいきません。

 将来的には、太陽光・風力・水力・地熱など自然エネルギーによる電力だけで必要なエネルギーをまかなう必要があります。それが、脱炭素の鍵です。

 ただし、自然エネルギーには1つ、重大な問題があります。自然まかせなので、発電量の調整がしにくいことです。また、需要地から遠く離れた場所で発電するものが多く、需要地(都市部)まで運ぶ送電線を確保するのが困難という問題もあります。

 電気エネルギーの最大の弱点は、「保存」「運搬」が簡単にできないことです。特に、「保存」ができないことが重大問題です。そのため、自然エネルギーによって、大量の電気を得ても、それを有効に使う術がありません。

 例えばアフリカの砂漠に太陽光パネルを敷き詰めて一斉に発電すれば、大量の電気を得ることができますが、それを都市まで持ってきて使う術がありません。仮に送電線を張り巡らせて、砂漠の電気を都市まで運んできても、発電のタイミングと電力消費のタイミングがずれるため、有効に消費できません。

 この問題を解決する切り札の1つと考えられているのが、水素です。自然エネルギーによって発電した電気を水素に変え、水素を保存・流通させることで、エネルギー循環社会を作ろうとする試みです。

 以下の図をご覧ください。

水素を使ったエネルギー循環社会(イメージ図)

出所:筆者作成

 自然エネルギーから得た電気で、水を電気分解すると、水素が得られます。その水素をエネルギー源とする、エネルギー循環社会を作ろうという考えです。水素の運搬・保存も簡単ではありませんが、電気を運んだり貯蔵したりするのに比べれば、容易です。

 今、水素流通インフラの整備のために、さまざまな企業が先行投資しています。将来は、低コストの水素流通インフラが実現すると予想しています。

 水素エネルギーを使う際、酸素と化学反応させます。そこで得られる電気を使います。それが、燃料電池といわれる発電システムです。そこで排ガスはいっさい出ず、水だけが排出されます。

 技術的に越えなければならないハードルはまだたくさんあり、実現まで紆余曲折があると思いますが、2040~2050年をめどにその技術革新・構造改革をやっていく方針を決める国が急速に増えており、今後急速に技術革新が進むと考えられます。株式市場でも、水素関連株が折に触れて、注目されるようになると思います。

▼著者おすすめのバックナンバー
2021年1月26日:2050年の「脱炭素」は可能?3つの障害と化石燃料との向き合い方 

(窪田 真之)

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