なぜバフェットは石油・天然ガス株を買うのか?
トウシル / 2022年8月23日 5時0分
なぜバフェットは石油・天然ガス株を買うのか?
バフェットはこの半年10回以上、石油株を買った
ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイは、この数カ月間、立て続けに石油・天然ガス関連株を購入しています。
以下は同社が購入したオクシデンタル・ペトロリアム社(以下、オクシ社)の株価と、米国の天然ガス先物価格の推移です。中期視点で、二つは同じような山と谷を描いています。
図:オクシデンタル・ペトロリアム株と米国天然ガス先物価格の推移
オクシ株の推移に赤い丸を付けた箇所が、バークシャー・ハサウェイが購入した日です(10%取得後)。数日にわけて購入した場合は初日に丸をつけています。
バークシャー・ハサウェイは3月上旬にオクシ株の10%を超える保有者となり、以降オクシ株を購入するごとに、米国の政府機関であるSEC(Securities and Exchange Commission 米証券取引委員会)に報告する義務が生じています。
8月4日までに、バークシャー・ハサウェイがオクシ株を購入したことを記載した「フォーム4」は、13回提出されました(フォーム13は四半期ごとに提出)。天然ガス価格の上昇、そしてバフェット氏の買いもあってか、足元、オクシ株は年初来高値水準にあります。
すでにバークシャー・ハサウェイはオクシ株の20%超を保有しています。なぜ、バフェット氏はオクシ株を買うのでしょうか。この問いについて、筆者なりの考えを述べます。
米国のシェールガス・オイルの事情を確認
以下は、米国国内のシェール層の分布と主要な生産地域を示しています。シェール層とは、天然ガスや原油を含んだ頁岩(けつがん)層のことです。米国で2010年ごろからはじまった「シェール革命」の舞台です。
図:米国のシェール層と生産主要地区
探索や掘削などの技術が急速に向上したことで、シェール層から天然ガスや原油を抽出することが可能になりました。シェール層は、主に米国のロッキー山脈以東に、幅広く分布しています。
EIA(米エネルギー情報局、米国の政府機関)は、米国全土に七つ、シェールの主要地区があるとしています。中でも生産量が多いのが、米国東部のペンシルベニア州を中心にした「アパラチア地区」と、南部のテキサス州を中心とした「パーミアン地区」です。(これら二つの地区で、シェール主要地区由来の天然ガスと原油、それぞれおよそ60%を生産)。
オクシ社の開示資料によれば、同社はパーミアン地区でトップクラスの油田を有しています。また、同社は同地区での操業にあたり、生産時に放出される二酸化炭素の回収・貯留に力を入れています。
オクシ社は、世界中で幅広くビジネスを行う巨大な石油企業(メジャー)ほどの規模はないものの、米国国内のパーミアン地区を中心に、コンパクトにスマートに、ビジネスを行っている印象があります。
また、同社の海外拠点は、オマーン、UAE(アラブ首長国連邦)、アルジェリアにありますが、メジャーと異なり、拠点数が少なく、かつ政治的な影響を受けにくい国で操業をしていると言えます(メジャーのエクソン、シェブロン、BPは、ウクライナ危機勃発がきっかけで、ロシアからのビジネス撤退を表明した)。
効率が良い地域で生産をしている、環境配慮を具体的に実践している、大きすぎない、海外の生産地の政治的影響を受けにくい、などはオクシ社の強みと言えるでしょう。
勢い付く、米シェールガスの生産
以下は、米国の天然ガスと原油の生産量の推移です(米国全体とシェール主要地区)。2010年ごろから、シェール革命がはじまり、ともにシェール主要地区の生産量が急増しはじめました。それにともない米国全体の生産量が増加しはじめました。
2014年後半から2016年末にかけて発生した原油相場の急落・低迷「逆オイルショック」の影響で、一時的に生産量が減少する場面があったものの、2017年以降、増加に転じました。その後、2020年春のコロナショックで減少するも、再び増加に転じました。
コロナショック後は、特に天然ガスの生産量増加に勢いがあります。天然ガスの生産量はコロナ前の水準を上回り、現在も顕著な増加傾向が続いています。化石燃料の中でも、比較的、燃焼時に排出される二酸化炭素の量が少ないとされる天然ガスは、「脱炭素」が進む米国で重用される存在です。
原油は電気自動車(EV)の普及が始まったことで、超長期視点の需要減退が意識されはじめている、政策的に原油を使うことを否定するムードがあるなどの影響で、勢いを伴った生産増加が発生するムードはないように感じます(とはいえ、増えないわけではない)。
グラフから分かるとおり、天然ガスの生産量の増減の波は、原油の波に比べて、小さいです。これは、「脱炭素」下でも、一定の強い堅調な需要があるためだと、考えられます。
図:米国の天然ガスと原油生産量の推移
米国国内の電力事情がガス需要・生産を支える
天然ガスに強い需要をもたらしている分野が「発電」です。2021年、米国で発電のために用いられたエネルギー源の38%超が天然ガスでした。
米国で「脱炭素」が加速する中、発電量の総量を維持しながら、発電起因の二酸化炭素の排出量を削減するべく、火力発電向けの燃料が石炭から天然ガスに切り替わってきています。
再生可能エネルギーが主力の発電源になるまでは、天然ガスは必要不可欠でしょう。今後さらに、発電の分野における天然ガスと石炭の入れ替わりが進むと考えられます(今後さらに、天然ガスが重用されそう)。
図:米国の電源構成の推移 単位:10億キロワット時
欧州の天然ガス価格高騰はビジネスチャンス
米国国内の長期的な電源構成の変化により、今後さらに天然ガスに注目が集まる可能性があると書きました。ここからは、米国国外の事情起因で、天然ガスと原油に注目が集まりつつある例を述べます。
ウクライナ危機が勃発したことをきっかけに、制裁を科すため、西側諸国はロシアから天然ガスや原油を買わない方針を打ち出しています。一方、ロシアは天然ガスや原油の出し渋りをするそぶりを見せています。
「買わない西側・出さないロシア」という図式は、前回の「原油下落でも残る不安。投資のアイデアはある?」で述べたとおり、特に欧州での需給のひっ迫度を高め、世界的な天然ガス価格高騰・原油高止まりの主因になっています。
こうした欧州の需給ひっ迫を和らげる策として行われているとみられるのが、米国の欧州向け輸出拡大です。欧州の天然ガス価格が急騰し始めた2021年秋ごろから、EU(欧州連合)諸国向けの天然ガスの輸出が急増しはじめました。
その後、ウクライナ危機が勃発し「買わない西側・出さないロシア」により、需給のひっ迫度がさらに高まったことを受け、EU諸国向けの輸出がさらに増加・高止まりしています。
原油も、ウクライナ危機が勃発し、欧州主要国が「買わない」姿勢を鮮明にした頃から、EU諸国向けの輸出増加が目立ち始めています。
図:米国の天然ガス(LNG)と原油輸出量の推移(EU諸国・アジア諸国向け)
欧州向けの輸出増加は、米国国内で操業する石油・天然ガス会社にとって、大きなビジネスチャンスと言えるでしょう。
バフェット氏の売り抜けタイミングに注意
足元、「脱炭素」起因の米国国内の発電向け需要の高まりや、ウクライナ危機起因の欧州向け輸出増加を背景に、主に米国国内でコンパクト、かつスマートに操業する石油・天然ガス会社に、注目が集まっています。
ウクライナ危機が沈静化せず、需給ひっ迫懸念が続くうちは、米国の欧州向け輸出は増加・高止まりする可能性があります。世界的なエネルギー価格の高止まりもあり、米国国内の石油・天然ガス会社にとっては、追い風が吹き続ける可能性があります。
こうした中、19日、FERC(米連邦エネルギー規制委員会)が、バークシャー・ハサウェイがオクシ株の普通株式を最大50%取得することを承認したと報じました(7月11日に申請)。
天然ガスを中心としたエネルギー情勢は、足元、関連企業の株価上昇を予感させ、著名投資家のさらなる株式購入の意欲をかき立てているようです。
ただ、留意点もあります。2020年8月にバフェット氏が購入して話題になった金鉱株の一つ、「バリック・ゴールド(GOLD)」。まだ保有しているのでしょうか。すでに売却したのでしょうか。売却したのであれば、いつ売却したのでしょうか。
2020年第4四半期のフォーム13で、全て売却したことが確認されています。金(ゴールド)投資→長期保有を予感させたものの、数カ月後には、売却していました。バフェット氏は時に、「足が早い」ことを念頭に置く必要があります。
「脱炭素」「ウクライナ危機」「米国の石油事情」、そして「著名投資家の関連株保有」。話題に事欠かないエネルギー関連銘柄から、今後も目が離せません。
[参考]エネルギー関連の具体的な銘柄
国内株式
国内ETF・ETN
NNドバイ原油先物ブル
NF原油インデックス連動型上場
WTI原油価格連動型上場投信
NNドバイ原油先物ベア
外国株式
海外ETF
iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド
投資信託
UBS原油先物ファンド
米国エネルギー・ハイインカム・ファンド
シェール関連株オープン
海外先物
CFD
(吉田 哲)
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