年金が「可変式」へ、リタイア年齢も「可変式」に~FIREとWPPはつながっている?~
トウシル / 2022年10月25日 6時0分
年金が「可変式」へ、リタイア年齢も「可変式」に~FIREとWPPはつながっている?~
FIREとWPP、実は二つはつながっている
ここ数年、人気のテーマの一つがFIREです。経済的独立と早期リタイアを実現する資産計画目標ということで、がむしゃらにただ運用をするのではなく具体的な目標(金額と年齢)が掲げられたことで、人気のキーワードとなりました。
もう一つ、あえて遅くリタイアするというキーワードがWPP理論です。高齢期にも働いて得られる収入、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)や退職金などの老後資金の取り崩しを活用し、公的年金を繰り下げして増額させ、老後の一生の安心を手にしようというものです。
それぞれ、過去のバックナンバーで論じているので参考にしていただければと思いますが、実はこの二つのお金に関するキーワード、対立するようで「つながっている」としたらどうでしょうか。
かたや「早くリタイアする」という目標を設定するFIRE、かたや「遅くリタイアする」という計画を考えるWPP理論ですが、どちらも「自分のリタイア年齢は自分で決める」という同じコンセプトが根っこにはあるからです。
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公的年金は「可変式」受給開始年齢になった
最近、いろんなところで指摘をしているのですが、「定年まで働く」という常識的発想、「公的年金の受給開始年齢まで働く」というような固定的観念は、もはや終わりを告げようとしています。
象徴的なのは、公的年金の受給開始年齢は自己決定することができるということです。60歳から75歳までの間で「いつからもらい始めるか」を自己決定できます。
これは同時に公的年金の水準を最後の最後で自己決定できるともいえます。国はマクロ経済スライドで給付水準の調整を行いますが、自分の老後を65歳より数年遅らせることができれば十分にこれに対抗することができます。
財政検証結果などをみるところ、67歳ないし68歳まで受給開始年齢を遅らせることは、給付水準の引き下げをカバーしうるとみられますが、2年の繰り下げが16.8%アップ、3年の繰り下げが25.2%の年金水準アップに相当します。
もし、そこまで手元資金や仕事の収入でやりくりできれば老後の不安は大きく下がりますし、それ以上働いてリタイアできればもっと年金額が上がります(なお無年金の期間が数年生じた分は、増額された年金を平均寿命までもらえば基本的に取り返せる仕組みになっています)。
逆に「あえて年金額が減っても年金をもらえる」のが65歳前の繰り上げ年金で、私たちは年金の受給開始年齢は「可変式」であり自己選択できる時代に入ったのです。
(今までの世代は部分的に公的年金相当額を60歳代前半にもらう経過措置があったので、おのずとこれをもらい65歳から満額年金にするレールに乗らざるを得なかったため、「固定式」だったのです。)
会社は「いつまでもどうぞ働いて」の世界へ
それでは会社の雇用条件はどうか、というとこちらもまた「可変式」の状況になっています。
法律上の義務は65歳までの雇用確保で、まだ多くの会社は60歳定年です。多くの人は「65歳まで働いて、仕事がなくなったら年金を国からもらう」と考えている根拠となっているわけですが、実はこの「働ける年齢」すら、65歳がデフォルト設定ではなくなりつつあります。
今年の6月に公表された厚生労働省の調査(令和3年「高年齢者雇用状況等報告」)によれば、65歳を超えて働くことができる会社は38%あって、そのほとんどは70歳を超えても働けるというのです。
この数値、毎年確実にアップし続けていて、予想を上回るペースとなっています。私は38%の数字は数年後くらいを予想していましたが、企業の現場はむしろ、「いつまでも働いてくださいよ(条件は応相談)」となっているわけです。もちろん理由の一つは人材不足です。
かつて団塊世代が60歳を迎えたころ、高齢者雇用は「人は余っているけど、仕方なく」というニュアンスでした。今はまったく違います。
国が70歳雇用確保措置の努力義務化をようやくスタートさせたところ、むしろ多くの会社が70歳まで働ける環境にあり、この流れは加速しています。
そうなると、会社にいわれるがまま継続雇用を延長して働くことはできるようになります。会社としては「いつまでも働いてくれるならどうぞどうぞ」というスタンスです。しかし文字通り「いつまでも働かされる」ことになりかねません。
また、雇用条件(仕事の内容と賃金水準)は別の話です。会社が低賃金で高負担かつやる気のおきない仕事しか与えてくれないなら「オレのほうから辞めてやる!」ということだって考えていいわけです。
個人のリタイア年齢も「定年」発想から「可変式」に!カギは「財産作り」
これらは、近い将来(今ももう半分くらいはそうなっている)、「定年」で会社を辞める発想が過去のものとなることを示唆しています。
みんなが一律に生年月日で辞めるのは昔の話です(そもそも、入社から38年、ではなく生年月日の60歳で線を引くっておかしくないですか?)。
もう一度確認をします。
- 会社は60歳定年を中心としつつも定年年齢を引き上げたりして70歳あるいはそれ以上働けるようになる
- 国の年金は60〜75歳の間で好きな年齢で受け始めることができる
そうなると、最後の問題は「自分は、何歳でリタイアをしたいのか」という意思と、「その年齢でリタイアをしても困らないだけの経済的基盤はあるのか」という経済的前提条件を満たせるかどうかという2点になります。
そして状況が整えば、リタイア年齢は自分で決められる時代に来ているのです。
これはおそらく、歴史的にも珍しい時代の始まりです。それこそ江戸時代の商人の「隠居」のような感じで、自分がやりたいことがあり、後進に譲れる環境が整えばリタイアをして悠々自適の老後を楽しんでいいわけです。
より重要度を増す現役時代の資産運用
引退年齢が可変式になったとしたら「早く引退するプログラム=FIRE」であり「遅く引退するプログラム=WPP理論」となり、両者は一連のものとしてつながってきます。
私はFIREブームを前向きに考えているのですが、それは引退年齢の自由を意識的に自分でコントロールすることはマネープランとして素晴らしいチャレンジだと考えるからです。
正確な日本地図の測量をリタイア後に行った伊能忠敬は50歳で引退したといわれますが、伊能忠敬は息子に家督を譲り、またしっかりとした事業が確立されていたそうです。私たちも早期リタイア後に経済的に困らないのであれば「早く辞める自由」があります。もちろん公的年金生活までの「経済的つなぎ」をしっかり考える必要はありますが。
WPP理論が示唆するような遅いリタイアは、仕事が充実していて長く働ける人や、最後の数年を意識的に個人資産の取り崩しをすることで公的年金増額を狙って実行できるような人にとっての選択肢です。公的年金の増額が中核になるとはいえ「リタイア年齢(および公的年金の受給開始年齢)を自分で決める」ことは同じです。
今までは誰もが「年金は65歳から」と思い込んできました。これからの時代は自分自身で「68歳で年金受給開始とする」とか「70歳で」あるいは「75歳で」と期間を決めることができます。
そして、どちらの場合も重要となるのは現役時代の資産形成努力、リスクを取った資産運用の試みです。iDeCoやNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)をしっかり活用した人はリタイアの自由をたぐりよせることになるはずです。
どちらのマネープランも実は、働かされる発想、つまり社畜根性からの卒業を目指しています。ぜひあなたも自分の引退を自分で決める世界を目指して、資産運用に取り組んでみてください。
(山崎 俊輔)
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