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中国経済の行く末は?新指導体制と「胡錦涛退席事件」を解説

トウシル / 2022年10月27日 6時0分

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中国経済の行く末は?新指導体制と「胡錦涛退席事件」を解説

※写真:LintaoZhang/GettyImagesNews/ゲッティイメージズ提供

 10月16~22日の日程で開催された中国共産党第20回全国代表大会が閉幕し、23日正午(北京時間)、新たな指導体制として、中央政治局常務委員の7人がお披露目となりました。本レポートでは、新指導部の顔ぶれを整理、検証しつつ、それが今後の中国経済にどのような影響を及ぼすのかを考えてみたいと思います。

北京の人民大会堂でお披露目された中央政治局新常務委員7人

 23日、日本時間12時45分ごろから、私は固唾(かたず)を飲んで中国の国営テレビ中国中央電視台(CCTV)の生中継を見守っていました。日本と中国には1時間の時差があり、北京時間の正午くらいに、新たに選出された中央政治局常務委員が北京の人民大会堂でお披露目されることは、前日の時点で発表されていました。

 5年に1度の党大会です。習近平(シー・ジンピン)総書記が異例の続投をすることが確実視されていましたが、これまでも本連載で適宜扱ってきたように、より重要なのが、習氏がどんな布陣で第3期目入りするかでした。常務委員が何人なのか、誰が入って誰が抜けるのか、総理候補は誰になるのか…。

 日本時間の13時になっても、CCTVの画面は人民大会堂のお披露目会場に変わりません。依然として、同局を代表する女性キャスターである労春燕(ラオ・チュンイエン)氏が、2人のコメンテーターに話を聞いています。

 ちなみに、私は北京で学び、働いていた頃、コメンテーターとして度々CCTVの時事番組に出演していましたが、労氏は最も頻繁に組んだキャスターであり(当時はそこまで有名ではなかった)、党大会生中継番組のアンカーを任されるまでになったのだなと、感慨深く思いました。

 数分が過ぎて、労氏がようやく「それでは人民大会堂に画面を移しましょう。新たな常務委員のお披露目です」と言うと、私の緊張のボルテージも最大限に上がりました。生中継のカメラが新常務委員らの出てくる黄金の扉をとらえ、しばらくすると扉が開きました。

 先頭で出てきたのは習近平氏、予定通り3期目入りの確定です。問題は誰がそれに続くか。数秒がたち、常務委員の数が現状維持の7人であることを確認。ここまでは良かったのですが、習氏の後ろを歩いているのが、私自身想定していた胡春華(フー・チュンファ)・現国務院副総理ではなく、李強(リー・チャン)・現上海市書記だったこと、7人の中に、長身故にひと際目立つ蔡奇(ツァイ・チー)・現北京市書記がいることに驚きを隠せませんでした。しばらくの間呆然としてしまい、習氏が続けて行った演説の中身が耳に入ってこなかったほどでした。

 従来の序列5位から4位に上がった王滬寧(ワン・フーニン)・現中央書記処書記を除いて、他の5人全員が習氏によって引き上げられた人間だと察知するのに時間はかかりませんでした。王氏は国際政治学者出身で、江沢民(ジャン・ザーミン)、胡錦涛(フー・ジンタオ)政権にも仕えた人物で、「無派閥」だと解釈できますが、いまは習氏を特に思想やイデオロギーといった見地から支える立場にあります。

 過去5年の「習近平一強」体制から、「習近平派一色」体制へと推移した事実を物語っていました。

物議を醸した李強、胡春華の命運と胡錦涛前総書記退場事件

 新たな政治局常務委員の顔ぶれは、序列順に以下の通りです。

氏名(年齢) 党大会までの肩書 新たな肩書(決定/予定) 習近平派か否か
習近平(69) 党総書記 党総書記(決定) -----------------
李強(63) 上海市党委書記 首相(予定) 習近平派
趙樂際(65) 党中央規律検査委員会書記 全国人民代表大会常務委員長(予定) 習近平派
王滬寧(67) 党中央書記処書記 全国政治協商会議主席(予定) 無派閥
蔡奇(66) 北京市党委書記 党中央書記処書記(決定) 習近平派
丁薛祥(60) 党中央弁公庁主任 筆頭副首相(予定) 習近平派
李希(66) 広東省党委書記 党中央規律検査委員会書記(決定) 習近平派
筆者作成

 この中で、私が最も驚いたのが李強氏の序列2位、すなわち総理内定です。改革開放以降、全ての総理経験者は副総理を経験した上で、総理になっています。一方、李氏には副総理を含めて、国務院、すなわち中央政府で働いた経験がありません。比較が正しいか分かりませんが、大阪府知事がいきなり霞が関/永田町にやってきて、内閣の首長として中央省庁全体を束ねようとしているようなものです。首都における経験も人脈もない人物に果たして務まるのか、疑問符を付けざるを得ません。

 李氏が首相に就任するのは来年3月の全国人民代表大会(全人代)ですから、それまでに副総理を経験させて、政権としての体裁を整える可能性はあるでしょう。ただ、体裁はどこまでいっても体裁であり、わずか数カ月で中央政府における人脈や経験を構築できるとは到底思えません。

 新常務委員がお披露目する前日(22日)の閉幕式で、新たな中央委員205人の名簿が発表されました。そこに汪洋(ワン・ヤン)全国政治協商会議主席(副総理経験者)の名前がなかった時点で、私は、総理には胡春華・現副総理が就くと察知しました(新中央委員名簿に名前あり)。地方を統括した経験も十分であり、資格という観点から彼しかいないと判断したからです。

 ただ、ふたを開けて見ると、胡氏は人民大会堂のお披露目式に姿を現さなかった。それどころか、同時に発表された政治局新委員(24人)の中にすら彼の名前はない。胡氏は過去の5年間政治局委員(25人)としてやってきましたから、正真正銘の降格です。

 そして、海外メディアを震撼させた、党大会閉幕式で胡錦涛前総書記が半ば強制的に退席させられた「事件」は、私が把握する限り、上記人事と無関係ではありません。詳細にはあえて踏み込みませんが、あの時点で、胡錦涛氏は自らが思い描き、あるべきだと考える人事と、習氏が強行しようとする人事に明らかな落差が存在すると察知していたこと、その象徴が、同じ共産主義青年団出身の秘蔵っ子である胡春華氏の去就であったことは間違いないと言えるでしょう。

新指導体制が経済情勢に及ぼす影響

 明暗を分けた李強氏と胡春華氏を対照的に描写しましたが、私は前者が能力も経験もないにもかかわらず昇進し、後者はそれらが備わっているのに降格させられたと断定しているわけではありません。心の内は分かりませんが、習近平氏には、党と国の大局を保証するための独自の考えがあるのでしょう。胡春華氏には何かが足りなく、逆に李強氏にはそれが備わっているという見解を、習氏が抱いているのは間違いありません。

 では、その「何か」とは何なのか?

 私から見て、この部分こそが、新指導体制が今後の中国を巡る情勢や動向を左右し得る重要な要素になります。

 それは、忠誠心。それも、習近平新時代の為政者に求められる、忠誠心です。

 この問題を考える上で絶好のケーススタディになるのが、まさに今年の上半期、上海で2カ月以上続いたロックダウン(都市封鎖)にほかなりません。端的に言えば、異なる意見が上がってきていた中で、「ゼロコロナ」の観点から上海で徹底した都市封鎖をすべしという方針を決めたのは習近平氏本人です。李強氏はその方針を忠実に実行したにすぎません。李強氏に自分の意思はないのです。あってもそれを実行することはありません。

 上海市(民)の実情をより正確に理解しているのは習氏ではなく、李氏のはずです。中国最大の国際ビジネスセンターで、政治ではなく経済の都である上海で徹底した都市封鎖を長期にわたって実行すれば、経済がどうなるか、市民の生活がどうなるか、李氏には容易に理解できたはずです。

 ただ、これは李氏にとってある意味どうでもよかった。市民がどれほどの犠牲を強いられるか、経済がどれほどのダメージを受けるかではなく、習氏がどう感じるかに対して、どれだけ忠誠心を誓い、それに基づいて行動できるか。それこそが、李氏にとっての唯一の行動規範になります。習氏に対する権力の一極集中がもたらす副作用だと言えます。

 そして、忠誠を誓いとおした李氏は、習氏に続く序列2位、異例の総理候補となりました。職位としては、来年3月以降、李克強(リー・カーチャン)・現総理の後任として、内閣を率いていくのは李強氏に内定しました。国務院総理・李強はどんな経済政策を打っていくのか。現時点では分からない部分もありますが、私の脳裏を駆け巡るのは、上海でのロックダウンの光景です。

 国民経済や生活ではなく、親分にのみ忠誠を誓う、それは市場にとってネガティブになるのではないか。24日、香港株式市場において、中国本土銘柄から成るハンセン中国企業株(H株)指数は7.3%安で引け、党大会後としては1994年の導入後で最大の下落率となりました。上海総合指数終値も2.02%安、中国株65銘柄で構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は14%下落し、2013年以来の安値で終了しています。

 私から見て、歴史的暴落の根本的要因は、この日遅れて発表された2022年7-9月期の実質GDP(国内総生産)が前年同期比3.9%増(2022年4-6月期の0.4%増から回復、市場予想も上回る)だったことではなく、上記の党大会人事にあります(「胡錦涛退席事件」も加担)。

 もちろん、それ自体は一時的な現象であり、特に中国に近い香港の投資家が過剰に反応したという側面もあるでしょう。一方で、李強氏を巡る人事に内包される政治リスクは、今後の中国経済を見ていく上でも避けては通れないと思います。

 習近平第3次政権がスタートしました。引き続き、本連載でも注意深く追っていきます。

マーケットのヒント

  1. 党大会閉幕後お披露目された新指導部を巡る人事は市場に大きなショックを与えた
  2. 特に李強氏の総理内定は、今後の中国経済を占う上での不安要素になる
  3. 遅れて発表されたGDP数値が株価下落の根本的要因ではないように、党大会を経て、最大の中国リスクは経済ではなく政治。
     

(加藤 嘉一)

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