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「スイスは時計とチョコしか作れない」の大誤解 日本人が知らない「スイスの製造業の正体」

東洋経済オンライン / 2023年11月30日 10時0分

とりわけ中国が世界最大の工業国として頭角を現すと、脱工業化論の支持者たちは、製造業は今後、中国のような人件費の安い、ローテクの国で行われるものになり、富裕国では金融やIT(情報技術)やコンサルティングといった高度なサービス業が産業の中心になるだろうと論じた。

この議論の中で、サービス業への特化で高い生活水準を維持できることを証明した国として、しばしば引き合いに出されてきたのがスイスとシンガポールだ。

インドやルワンダなど、途上国の中には、脱工業化論やスイスとシンガポールの事例に刺激を受け、工業化の段階をある程度飛ばして、最初から高度なサービス業に特化した輸出国になることで、経済発展を遂げようと取り組んでいる国もある。

スイスは世界一の工業国

しかし脱工業化論者にはあいにくだが、現実には、スイスは世界一の工業国だ。スイスの国民ひとり当たりの製造業生産高は世界で最も高い。

確かに「メイド・イン・スイス」の製品はあまり見かけないかもしれない。しかしそれはひとつには国の規模が小さいからだし(人口わずか900万人程度)、またひとつには、一般の消費者の目に触れない、経済学でいうところの「生産財」(機械、精密設備、工業用化学物質)の製造に重点を置いているからでもある。

興味深いことに、世界第2位の工業国はどこかというと、脱工業化の成功例としてスイスとともに語られることの多いシンガポールなのだ。スイスやシンガポールを脱工業化やサービス経済化の手本に使うのは、ビーチでのバカンスを宣伝するのにノルウェーやフィンランドを使うようなものではないだろうか。

生産性の変化が原動力に

脱工業化論の支持者たちは、最近の経済に起こっている変化の本質を、根本的に見誤っている。脱工業化の主な原動力になっているのは、生産性の変化であって、需要の変化ではないのだ。

このことは雇用面に着目すると、わかりやすい。製造工程がどんどん機械化されているので、同じ製造業生産高を達成するのに必要な労働力は減っている。機械や産業用ロボットの助けを借りれば、今の労働者は親の世代に比べ、何倍も多くのものを生産できる。

半世紀前、富裕国では製造業に携わる人が労働力人口の約40%を占めていた。しかし現在では、労働力人口の10~20%で、同じか、ときにそれ以上の製造業生産高を実現している。

生産高の動向はそれよりいくらか複雑だ。確かに、富裕国の経済では製造業の重要性が低下し、サービス業の重要性が高まっている。しかしそういうことが生じているのは、脱工業化論者たちがわたしたちに信じ込ませようとしているのとは違って、絶対値でサービスの需要が工業製品の需要以上に伸びているからではない。

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