近鉄奈良線「お寺の賽銭で資金調達」伝説は本当か 沿線の宝山寺資料で解き明かす当時の実情
東洋経済オンライン / 2023年12月2日 6時30分
資金難に苦しみ、沿線の寺からお賽銭を借りて窮地を脱した鉄道会社がある――という“都市伝説”をご存じだろうか。大阪電気軌道、現在の近鉄である。
【貴重な資料】宝山寺に保存されている開業時の大軌の「賃金(運賃)」表や、「大正三年八月廿九日」の日付と当時の大軌支配人金森又一郎氏の署名がある「領収証」
この寺の協力がなければ近畿一円に広がる現在の近鉄の姿はなかったかもしれないというこの話、はたして本当なのだろうか。社史や寺に残る資料などをもとに、当時の事情を探ってみた。
近鉄奈良線と宝山寺の関係
近鉄の始まりは1910年。当初は奈良軌道という名称で設立され、その後すぐに社名を大阪電気軌道(通称「大軌」)に改めた。現在の大阪上本町と近鉄奈良を結ぶ近鉄奈良線の建設から事業をスタートし、1911年には大林組の手で生駒トンネルを着工。この際、石切駅で生駒山にある宝山寺が地鎮祭を執り行ったという。宝山寺住職の大矢実圓さんは「大軌にとっても宝山寺にとってもお互いに持ちつ持たれつの関係という意識があった。沿線住民と参拝者の利便のため協力するのは当然」と語る。
1911年6月に着工したものの、資本金300万円に対して上本町―奈良間の建設費は570万円。300万円の資本金は生駒山をトンネルで貫く想定で用意した金額ではなかったが、ルート検討の結果、当時としては長大な生駒トンネルの掘削を決断したことで建設費が倍近くにふくれあがった。
この建設費を賄うための資金調達に、創業期の大軌は苦労することになる。「借入金や社債による調達も検討したが、不況のためにそれも叶わず、株主からの株式払込金収受を進める以外に方法がなかった」(『近畿日本鉄道100年のあゆみ』より)。
そんな中、1913年1月26日に生駒トンネル導坑内で岩盤崩落事故が発生。この事故で大軌に対する評価が悪化し、世間では会社解散の噂も飛び交い株価は大暴落。株主が大軌事務所に押し寄せる騒動にまでなった。
それでも同年4月までに株式払込金300万円の収受が完了。5月と8月には計300万円の社債を年利8%で発行。総額600万円の資金を確保したという。だがこの時すでに建設費として500万円を支出しており、さらなる資金調達を必要とした。
1914年、大軌は優先株式発行を図ったが応募総数に達せず、続いて計画した財団抵当借入も実現しなかった。このため既発社債の償還もままならず、支払猶予公告を出すに至る。まさに近鉄ならぬ「金欠」の危機である。この危機の中でも大軌は1914年4月、現在の近鉄奈良線上本町―奈良間の開業になんとかこぎつけた。
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