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「能力主義社会は幻想」と行動遺伝学者が言う背景 無料塾は教育格差にどう立ち向かうべきか?<後編>

東洋経済オンライン / 2023年12月16日 18時0分

能力主義は、遺伝的不平等がそのまま社会的不平等になってしまう。では、どうしたらいいのでしょうか(写真:露木聡子)

学習支援ボランティアの様子を『ルポ 無料塾』として上梓した教育ジャーナリストのおおたとしまささんと、『教育は遺伝に勝てるか?』などの著書がある行動遺伝学者の安藤寿康さんが、教育格差の解決策について語り合う<後編>。

(前編:『「学力差の要因は遺伝が50%」教育格差の解決策』)

公正な競争にもとづく能力主義はあり得ない

おおた:「生まれ」によって学力・学歴が変わってしまうのはアンフェアだという考えがある一方で、公正な競争の結果できた達成度の差によって地位や収入が変わるのは当然だという考え方があります。いわゆる能力主義(業績主義、メリトクラシー)です。

【写真】おおたとしまささんと安藤寿康さん

でも知能や学力の約半分が遺伝で説明できてしまうという事実を前にしたとき、そもそも能力主義は成り立つのでしょうか。

安藤:学力のような特定の能力の高いひとほど有利な立場に立つ権利があるとする能力主義は、遺伝的不平等がそのまま社会的不平等になるという意味で、成立させてはならないことだと考えています。

おおた:行動遺伝学の立場からすれば、公正な競争にもとづく能力主義という概念自体が幻想であると。そんなことを追い求めても出口が見つかるはずがないと。

安藤:そうです。代わりに、どの領域にもその領域において有能なひとが配置され、その能力をさらに高めるように教育されることが望ましいという意味での能力主義は歓迎されるべきだと思います。

その結果として、どんな能力の持ち主でも社会のどこかでその有能性が発揮され、それによって極端な貧富の差や機会の不平等が生じない社会となっていることが必要だと思います。

おおた:同感です。拙著『ルポ 無料塾』でも、心理学や哲学の独立研究者である山口裕也さんが似たような提案をしてくれています。

安藤:ただ、それは理想論であって現実はそうはいかないよって声も当然聞こえてくるわけです、自分の頭の中で。

教育格差=教育問題ではない

おおた:社会経済的地位に代表される「生まれ」による影響さえ打ち消せれば公正な競争が実現すると思い込んだままだと、そっちに希望を感じちゃうから、いまの社会の現実を変えなければいけないというモチベーションが相対的に抑制されてしまいます。

知能や学力の半分は遺伝で説明できちゃう以上、公正な競争なんてあり得ないんだという事実を直視することで初めて、この社会の現実を変えるほかに道はないんだと背中を押されます。みんながそれに気づけば、変わるんじゃないかと私は考えています。

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