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パタゴニアも注力「サステナブルより先」の新概念 ステラマッカートニーも取組む世界最新の動き

東洋経済オンライン / 2023年12月22日 9時0分

グローバル化によりファッションの潮目は大きく変わりつつある(写真:えびたろ/PIXTA)

コロナ禍、世界的なインフレ、ウクライナ戦争やパレスチナ問題、そして気候変動の急速な悪化……。地球規模で起こる事象を受け、アパレル業界はいま、グローバルで大きく変化している。

2000年代から世界を席巻した「大量生産・消費のファストファッション」は、地球環境に配慮する「サステナブルファッション」に移行しつつある。欧米を中心に規制やガイドラインが整備され、消費者の意識・行動も変わりはじめた。

結果、新品市場が伸び悩み、中古品市場やデジタルファッション市場に注目が集まっている。

グローバルでファッションの潮目が大きく変わる中、日本のアパレル企業は生き残ることができるのか?

著書『2040年アパレルの未来─「成長なき世界」で創る、持続可能な循環型・再生型ビジネス』を上梓したコンサルタントの福田稔氏がアパレル/ライフスタイル領域の企業が今、何をすべきかを解き明かす連載4回目。深刻化する環境問題に向け、一歩進んだ業界や企業の取り組みについて解説する。

このまま進めば、地球の気候はもっと危機的状況に

経験したことのない猛暑や大雨、ゲリラ豪雨など、温暖化の影響による異常気象は、私たち日本人だけでなく、世界中の人たちが肌で感じている地球規模の環境変化です。

【図でわかる】経済好調のアメリカでさえ苦戦?「安すぎる日本アパレル」が値上げできない深刻な訳

世界気象機関(WMO)は、2023年の1月~10月の平均気温が産業革命以前から1.4度ほど上昇し、観測史上最も暑い年になることは確実と指摘。

パリ協定で締結した「産業革命以前から1.5度の上昇に抑える」という目標の手前まで、現実は迫っています。

深刻さを増す気候変動のスピードに、国連も本気で立ち上がろうとしています。

2023年12月、国連の気候変動会議(COP28)は「化石燃料からの脱却」という文言を初めて盛り込みました。一部の欧米メディアでは、歴史的な合意と報じられています。

このような中、社会や企業は何を目指すべきなのでしょうか。

グローバルではいま、「サステナビリティ」をより進めたコンセプトとして、「リジェネレーション」「リジェネラティブ」が注目を集めています。

「リジェネレーション」「リジェネラティブ」とは?

「再生」という意味を持つリジェネレーションは、地球環境の持続可能性だけでなく(サステナブル)、すでに壊してしまった多くの地球環境を再生し(リジェネラティブ)、すべての生き物にとってよりよい状態に戻すことを目指す考え方です。

CO2排出問題であれば、排出量ゼロを目指すカーボンニュートラルにとどまらず、一歩進んで、CO2の総量を減らしていくカーボンネガティブを目指します。

「リジェネレーション」はすでに農業分野において広まり、アメリカでは「リジェネラティブ農業」、日本では「環境再生型農業」と呼ばれています。

なぜ、農業分野で「リジェネレーション」が広まっているのか。

じつは、農業が地球環境に与える影響が非常に大きいものだからです。

実際には、過去に人間が自然を農地に転換してきたことで、自然界の温室効果ガスの吸収量を減らし、気候変動を促進してきたという厳しい現実があります。

一般的に、自然の森を単一作物の農地にすると、温室効果ガスの吸収力は2分の1になるといわれています。

生産性を上げるために二毛作、三毛作を行えば、土壌がやせて、温室効果ガスの吸収力はさらに下がります。

世界で注目を集める「リジェネラティブ農業」とは

「リジェネラティブ農業」は、農地の土壌の健全性を保つだけではなく、土壌を改善しながら温室効果ガスの吸収力向上と生態系の回復につなげることを目指します。

現在、人間が広げてきた農耕地は、地球上の陸地の約46%を占めます。

土壌が健全であるほど多くの温室効果ガスを吸収するため、広大な農地の温室効果ガス吸収力を上げる「リジェネラティブ農業」は、気候変動対策のひとつとして有効なアプローチとなるわけです。

すでにグローバルの大手企業では、「リジェネラティブ農業」への取り組みが広がりつつあります。

食品会社のネスレは、温室効果ガス排出量実質ゼロの実現を目指し、「リジェネラティブ農業」を推進することを発表しています。

具体的には、2025年までに主要原材料の20%を「リジェネラティブ農業」によって調達し、2030年までにその比率を50%に高めることを目標にしています。

同じく消費財大手のユニリーバが擁するクノールは、2026年までに50の「リジェネラティブ農業プロジェクト」を立ち上げ、生物多様性、土壌の健全性を改善しながら、温室効果ガスの排出と水の使用量を30%削減する目標を立てています。

北海道で「スタートアップ」が誕生

日本でも、「リジェネラティブ農業」に取り組むスタートアップが出てきています。

北海道で放牧酪農により乳卵製品やお菓子をつくっている「ユートピアアグリカルチャー」という会社があります。

「ユートピアアグリカルチャー」では、放牧酪農(乳牛を放し飼いにする)でのCO2削減を中心に、北海道大学と共同で持続可能な酪農を研究しています。

放牧酪農は、牛が地面を踏み歩き、糞尿を返すことで増える微生物によって、土壌がメタンガスやCO2などを吸収・隔離する量を増やす効果が期待できます。

アパレル業界でリジェネレーションにいち早く取り組んだ企業としては、パタゴニアが有名です。

2012年に食品事業「プロヴィジョンズ」を立ち上げ、「リジェネラティブ農業」を取り入れた食料品の生産に力を入れています。

2017年には「リジェネラティブ・オーガニック認証制度」を立ち上げ、現在はその認証を取得した綿花農家を増やすことで、「リジェネラティブ農業」を広める取り組みに注力しています。

このような中、現在、リジェネレーションに取り組みはじめるアパレル企業が増えています。

アパレルの原材料調達は、綿花栽培や牧羊など自然に関わるものが多く、リジェネラティブ農業のアプローチを取り入れやすいからです。

「ザ・ノース・フェイス」など人気ブランドも

2021年、ザ・ノース・フェイスはアグリテック企業のIndigo Agと組み、綿花の栽培に同社のリジェネラティブ農法を取り入れ、CO2排出量の削減と栽培地周辺の生物多様性を回復させるプロジェクトを行うと発表しました。

2023年には、ステラマッカートニーがリジェネラティブコットンを100%使用したTシャツを発売。ステラマッカートニーは、現在のファッション業界においてリジェネラティブ農業は不可欠だとし、調達元であるトルコのソクタス社のリジェネラティブ農場拡大に取り組んでいます。

このように、アパレル企業にとってリジェネレーションは、原材料調達と新規事業機会という2つの観点で重要なコンセプトであり、今後踏み込んでいく企業が増えていくでしょう。

冒頭で紹介したCOP28において、国連のグテレス事務総長は「地球は破綻しつつある」と温暖化対策の遅れに強い危機感を示しました。会議では、化石燃料からの脱却や再生エネルギーの使用を3倍にすることなどにも合意されています。

しかしながら、CO2削減や化石燃料の使用量の抑制といった現状のアプローチでは、温暖化を止めるには不十分なこともわかりつつあります。

リジェネレーションのように、抜本的な自然の回復力を上げるような踏み込んだアプローチが、今後の社会、そして企業活動に求められていくでしょう。

福田 稔:KEARNEYシニアパートナー

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