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「亡き桐壺」に囚われる帝と母、それぞれの長い夜 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・桐壺③

東洋経済オンライン / 2024年1月7日 16時0分

光をまとって生まれた皇子(写真:星野パルフェ/PIXTA)

輝く皇子は、数多くの恋と波瀾に満ちた運命に動かされてゆく。

紫式部によって書かれた54帖から成る世界最古の長篇小説『源氏物語』。光源氏が女たちとさまざまな恋愛を繰り広げる物語であると同時に、生と死、無常観など、人生や社会の深淵が描かれている。

この日本文学最大の傑作が、恋愛小説の名手・角田光代氏の完全新訳で蘇った。河出文庫『源氏物語 1 』から第1帖「桐壺(きりつぼ)」を全6回でお送りする。

光源氏の父となる帝の寵愛をひとりじめにした桐壺更衣。病弱で、後ろ盾もない桐壺は、帝に愛されれば愛されるだけ、周囲の目に気苦労が増えていき……。

「桐壺」を最初から読む:愛されれば愛されるだけ増えた「その女」の気苦労

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【図解】複雑に入り組む「桐壺」の人物系図

桐壺 光をまとって生まれた皇子

輝くばかりにうつくしいその皇子の、光君という名は、
高麗の人相見がつけたということです。

若宮を恋しく思い出す日々

はかなく日は過ぎて、七日ごとの法事にも帝(みかど)はきまってお見舞いの使者を遣わせる。時がたてばたつほど悲しみは深まり、帝は、ほかの女御(にょうご)や更衣(こうい)たちとも夜を過ごすこともなくなった。ただ涙に暮れ、夜を明かし日を暮らしている。悲しみに打ちひしがれたその様子を見ている女房たちも、思わずもらい泣きをしてしまうほどである。

そんな帝を見て、弘徽殿女御(こきでんのにょうご)は「亡くなった後まで、こちらを不愉快にするご執心ぶりですこと」と、相変わらず容赦なく言う。

帝は、長男である一の宮(いちのみや)の姿を見るにつけても若宮を恋しく思い出し、親しい女房や乳母(めのと)をたびたび桐壺(きりつぼ)の実家に遣わせて、若宮の様子を尋ねるのだった。

秋のはじめ、野分(のわき、台風)のような風が吹き、急に肌寒くなったある夕暮れ時のことである。帝はいつにもまして思い出に浸り、靫負命婦(ゆげいのみょうぶ)という女房を桐壺の実家に遣わせた。夕月のうつくしい時刻に命婦を送り出し、自身はもの思いにふけっている。以前はこのような月のうつくしい夕べに、よく管絃の遊びを催したものだった。琴をみごとな腕前で搔き鳴らし、その場でぱっと機転の利いたことを口にした、人並み以上にうつくしい女の姿が、まぼろしとなってぴったりと寄り添っているように感じられる。しかしそのまぼろしも、かつての闇の中で見た現実の姿にはとうていかなわないのである。

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