50年前、無名の土地がシリコンバレーになった背景 夜8時半以降は夕食を食べるところがなかった
東洋経済オンライン / 2024年1月18日 11時0分
その後シリコンバレーとその姉妹テクノポリスたるシアトルでは、ホビットたちは維持しつつ怠惰な雰囲気を失い、1990年代のドットコム時代にはとんでもない高みにまで舞い上がった――ベンチャー資本家ジョン・ドーアはそれを「地球上で目撃された中で、唯一最大の合法的な資産創造」と呼んだ――が、新千年紀がやってきて、NASDAQ暴落の音と共に地面に墜落して、かつては輝いていたインターネット企業の死骸がそこらじゅうに散乱する結果となった。
雑誌の特集記事は熱狂の終わりを宣言し、陰気な顔の証券アナリストたちは、「買い」推奨を「売り」に変え、ウォール街の注目は再び、もっと予想しやすいブルーチップ古参企業のリズムに戻っていった。アマゾンのロケットめいた台頭は熱にうかされた夢のように思え、アップルは製品アイデアが枯渇し、マイクロソフトは会社の分割を命じられ、グーグルはガレージ企業でトップたちは利潤をあげるよりバーニングマンにでかけるほうに興味があるようだった。何という変わりようだろう。
そして現在まで時計の針を進めると、シリコンバレーはもはや、北カリフォルニアの一地域ではなくなった。それはグローバルなネットワーク、ビジネス感覚、文化的な簡便記法、政治的ハックとなった。世界中の何百もの場所が改名して、シリコンなんとか――砂漠、森林、ラウンドアバウト、ステップ、ワジ――となり、そのオリジナルの魔法を多少なりとも捕らえようとしている。
シリコンバレーのリズムは、その他あらゆる産業の働きを左右する。人間のやりとり、学習、動員のあり方まで変えてしまう。権力構造をひっくりかえしたり、強化したりする。シリコンバレーの生み出した億万長者マーク・アンドリーセンが数年前に述べたように「ソフトウェアは世界を喰い尽くしている」。
『The CODE シリコンバレー全史』に書いたのは、私たちがどうやってそのソフトに喰い尽くされる世界にやってきたかという話だ。これは、カリフォルニア州の緑豊かな峡谷が、ビジネス成功のコードを解明し、時期尚早な死亡宣言を何度も克服して、次から次へとハイテク世代を生みだし、そして世界の実に多くの場所がいくらやっても真似られない場所へと変貌した、70年にわたる物語となっている。
それはまた、現代アメリカの歴史でもある。政治的な分断と集合行動の物語、驚異的な機会と息の詰まるような偏見の物語、工場閉鎖と証券取引所の大繁盛の物語、ワシントンの大理石の廊下から、ウォール街のコンクリートの谷間へと到る物語だ。というのもこれらは、シリコンバレーを可能にしてきた多くのものの一部であり、そして同時にこれらはシリコンバレーにより作り替えられてきたものだからだ。
反エスタブリッシュ的な比喩まみれ
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