能登半島地震、医師が感嘆「移動薬局車」の活躍 災害医療に不可欠、能登地震では延べ7台稼働
東洋経済オンライン / 2024年1月18日 7時0分
モバイル・ファーマシー(MP)という車をご存じだろうか。
正式には「災害対策医薬品供給車両」と堅苦しい名称だが、いわば移動薬局車だ。だが、市販されている風邪薬などを搭載しているわけではない。医師の処方箋が必要な医薬品を薬剤師が車内で調剤して患者に手渡す。
2011年に起きた東日本大震災の教訓をもとに宮城県薬剤師会が開発したMPが全国に広がり、今回の能登半島地震には延べ7台が動員されている。新しい医療支援の形が模索され、薬剤師ともども震災医療の担い手となっている。
東日本大震災、熊本地震を経て定着
東日本大震災当時、被災地を巡る医療チームは薬剤師を帯同していなかった。持参する薬剤がなければ、なすすべがない。
被災者の多くは、お薬手帳を津波で流されて自分が服用している薬剤名さえわからない。その場に薬剤師がいれば色や形状から類推することができるし、同じ効果の代替医薬品を医師に提案することもできる。
このときから災害医療には薬剤師が必要だと認識され、医療チームに薬剤師が帯同することが多くなった。
地元の薬剤師会役員として震災の現場を目の当たりにした宮城県の山田卓郎薬剤師(現・日本薬剤師会常務理事)が開発したのが、キャンピングカーを改造したMPだ。最大500品目の医薬品の積み込みが可能で、調剤棚や分包機や電子天びんも備えているから、その場で患者に服薬指導をしながら手渡すことができる。
何より、薬剤師が寝泊まりするベッドもトイレも洗面台もあるから、被災地では大前提の“自己完結”も可能となる。
2016年の熊本地震では、被災翌日には災害派遣医療チームの拠点に、大分県薬剤師会のMPが投入された。災害医療の拠点に車両を置いて運用する「拠点固定型」で、避難所を巡回する医療チームが持ち帰った処方箋をもとに調剤し、翌日に避難所の患者に届けるシステムが定着した。
災害医療での薬剤師とMPの有用性がさらに認識され、医療チームの打ち合わせに薬剤師が出席するようになったのは、この震災からだ。多くの薬剤師会だけでなく、医大や薬科大がMPを導入するきっかけにもなった。いまでは全国で約20台のMPがある。
避難所を回っていると、皆が不安を抱えている
そして今回の能登半島地震では、すでに延べ7台が派遣されているだけでなく、活用方法もさらに進化してきた。
日本災害医療薬剤師学会の会長で兵庫医科大学危機管理医学講座の渡邉暁洋・薬剤師が能登半島先端の珠洲市に入ったのは1月4日昼過ぎだった。医療支援の拠点となる市の健康増進センターには、DMAT(災害派遣医療チーム)や日本赤十字社の救護チームなどがすでに活動を始めていた。そこで課題になっていたのが医薬品だ。
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