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「デジタルの先」の中心テーマ「自然資本」とは何か 「気候変動」問題以上に深刻な「生態系の危機」

東洋経済オンライン / 2024年1月22日 11時0分

「市場経済・コミュニティ・自然をめぐる構造」と題した図をご覧いただきたい。これは私たち人間が生きる世界を把握するための基本的な構造を示したもので、ピラミッドの一番下の土台には「自然」――人間にとっては“環境”でもある――がある。そして人間については、もともと人間は“社会性”が高度に発達した生き物であり、個体単独では生きていけず、何らの「コミュニティ(共同体)」を作って生を営んでいるのであり、これがピラミッドの真ん中の層に対応している。

しかし特に近代社会以降においては、コミュニティから個人が独立していくとともに自由な経済活動を広げていき、そこに「市場経済」の領域が大きく開けていった。これがピラミッドの一番上の次元であり、以上のように、私たちの生きる世界は「市場経済-コミュニティ-自然(環境)」の3層構造からなるものとして把握することができるだろう。

そして、先ほど言及したように、近代以降の社会においてはピラミッドの最上層の「市場経済」の領域が飛躍的に“拡大・成長”していったのであり、これがすなわち資本主義というシステムに他ならない。つまり資本主義とはイコール「市場経済プラス限りない拡大・成長を志向するシステム」なのである(この話題について詳しくは本稿の冒頭に示した拙著『科学と資本主義の未来』を参照されたい)。

この結果、「市場経済」の領域はその土台にある「コミュニティ」や「自然」からいわば“離陸”していき、しかもそれは(大規模な資源消費を伴いつつ)“限りなく拡大・成長”していったので、「コミュニティ」や「自然」の領域は大きく浸食され損なわれていった。「コミュニティ」の浸食は格差や分断として立ち現れ、「自然」の浸食は生態系の劣化や危機として立ち現れている。もっともシンプルに言えば、これが私たちがいま生きる世界の基本構造である。

したがって、まず純粋に論理として述べるならば、私たちにとっての課題は“着陸”の方向、すなわち市場経済の領域をその土台にある「コミュニティ」や「自然」にうまくつなぎ(あるいは“埋め込み”)、それらと調和するような経済社会システムを作っていくことにあるだろう。

「時間」という要素の重要性

実はこれは「時間」、あるいは時間軸の長短というテーマと深く関わる課題である。

つまり「市場経済」の領域はともかくスピードが速く、あるいはそれは“速度をめぐる競争”であり、株式市場などに象徴されるように、(超)短期の時間軸で物事の価値が評価される。これに対して「コミュニティ」の領域では時間はもっと“ゆっくり”と流れ、また、親から子、孫へという具合に、それは世代間の継承性という要素を含んでおり、そうした意味でも「長期」の時間軸に関わっている。さらに「自然」の領域になると、時間は一層ゆっくりと流れるとともに、生態系の変化、森林の遷移、生命の進化等々という具合に、「超長期」の時間軸が浮かび上がることになる。

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