1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「デジタルの先」の中心テーマ「自然資本」とは何か 「気候変動」問題以上に深刻な「生態系の危機」

東洋経済オンライン / 2024年1月22日 11時0分

ちなみにデイリーは、地球環境問題の解決のために優れた研究を行った人に与えられる「ブループラネット賞」を2014年に受賞しているが、その受賞インタビューにおいて“ハーマン・デイリーのピラミッド”とも呼ばれる枠組みを提示している。

この枠組みは、昨今関心の高い「ウェルビーイング(ないし幸福)」のテーマを「自然資本」や「持続可能性」と関連づけて示している点が興味深い(ただし、人間の幸福が最終目的で自然資本は究極の手段<meansとなっている点はいささか“人間中心主義的”な印象も残る)。

「自然資本」をめぐる議論の流れに戻ると、以上のようなシューマッハーやデイリーの先駆的議論が、いわば思想的あるいは理論的な次元を中心とするものであったのに対し、(地球環境をめぐる現実的状況が悪化をたどっていく中で、)それは次第により具体的あるいは実証的、政策的な議論や研究へと展開していった。

それらについて詳述する余裕や知見はないが、代表的な例としては、国連の「ミレニアム生態系評価」(2001年-2005年)の報告書Ecosystems and Human Well-being(邦訳:生態系サービスと人類の未来)や、イギリス政府から出されたThe Economics of Biodiversity: the Dasgupta Review(経済学者ダスグプタの名を冠したいわゆるダスグプタ・レビュー)が挙げられるだろう。こうした実証的・政策的な議論の流れが、近年における(ビジネスの領域を含む)「自然資本」への関心の高まりにつながっているのである。

ちなみに私自身も関与している最近の動きとしては、京都大学に2022年に創設された「社会的共通資本と未来」寄附研究部門において、ソニー・コンピュータサイエンス研究所や日立製作所とも連携する形で、ここで論じている「自然資本」に関する新たな視点からの研究を進めている(昨年<2023年>9月に「自然資本と地域・人間・社会をつなぐ―社会的共通資本の新たな展望(京都大学 人と社会の未来研究院 社会的共通資本と未来寄附研究部門)」と題したセミナーを開催している)。

自然資本をめぐるテーマを考えるための視座

「自然資本」というコンセプトがどのような発想のもとで生まれ展開してきたかを概観したが、ではこれらを踏まえたうえで、私たちはこうしたテーマをどのような枠組みないし視座においてとらえたらよいのか。こうした点に関する私自身の考えを述べてみたい。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください