相続税も圧縮?大正製薬の「MBO」は誰のためか 7100億円を投じる「上原一族」には複数の利点
東洋経済オンライン / 2024年1月22日 7時50分
総額約7100億円、国内では過去最大規模となるMBO(経営陣による買収)が完了した。
【図表で見る】大塚製薬のオーナーである上原家の家系図。”上原姓”による経営に並々ならぬこだわりを見せてきた
大正製薬ホールディングスがMBOを目的に1月15日まで実施していたTOB(株式公開買い付け)が成立した。これにより大正製薬は1月19日付で、同社の上原明社長の息子であり、現副社長の上原茂氏(47)が代表を務める大手門株式会社の子会社となった。3月上旬に開催予定の臨時株主総会などを経たうえで、上場廃止となる見込みだ。
大正製薬はMBOの目的について、中長期的な成長のために事業構造の大きな転換と先行投資が必要であると説明。それらの投資を「株式市場からの評価にとらわれず」迅速に行うため、非上場化に踏み切るという。
しかし、これらはあくまで表向きの理由ととらえたほうがよさそうだ。
2度の養子縁組でつないだ「上原」姓
MBOに至った背景を紐解くにあたっては、大正製薬の沿革を振り返る必要がある。
大正製薬の実質的な創業者とも言えるのが、3代目社長の故・上原正吉氏だ。正吉氏が社長を務めた1940~1970年代の間にリポビタンDなどのヒット商品を発売し、会社は急成長を遂げた。同社が「創業の精神」を説明するホームページでは、正吉氏を「大正製薬の礎を築いた、最大の功労者」と説明し、生い立ちや功績を紹介するページが設けられている。
その後の大正製薬は、「上原家」による経営に並々ならぬこだわりを見せてきた。
正吉氏は養子に迎えた上原昭二氏(96)を6代目の社長とし、7代目の現社長には昭二氏の娘婿で、同じく上原家の養子となった明氏(82)が就いた。そして今回、明氏の長男である茂副社長が代表の会社によるMBOが成立したことによって、同氏が8代目社長となるわけだ。
大正製薬の自己資本比率は83.1%(2023年9月末時点)と財務体質は盤石である一方、事業の状況は芳しくなかった。ここ数年、柱である市販薬事業は厳しい競争にさらされ、医療用医薬品事業の不振も重なり、利益と株価は低迷していた。
そうした背景もあってか、2023年6月の株主総会では上原明氏と上原茂氏の取締役再任に対する賛成率はそれぞれ74.72%、87.91%と、9割超を維持していた2年前と比べ大きく下落している。
上場している以上、業績や会社の価値を上げられなければ、一般株主やファンドなどの圧力にさらされる。早稲田大学大学院経営管理研究科の服部暢達・客員教授は「(直近の大正製薬の)収益性の低さはトップ交代に値するが、オーナー系企業であれば簡単には辞めないだろう。そうであれば、市場から退出するほうがよいのではないか」と指摘する。
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