野球指導者が子どもに体罰してきた歴史的な経緯 「体罰と日本野球」が解き明かすその根深い背景
東洋経済オンライン / 2024年1月23日 11時50分
その部分を本書では、プロ野球選手など有名な野球人の「自伝」に注目し、138人もの自伝を通読して、その中から「体罰、暴力行為」についての記述を抜き出し、統計を取っている。それによれば、旧制、新制中学、旧制高校、新制大学、社会人、プロを通じて体罰の経験がある人は50.4%に上るという。
「近年は、配慮して書かなくなりましたが、昔は、暴力などについて本の中でも包み隠さず話していました。その頃は、体罰などは問題でも何でもなかったですから」
筆者なども小さいころから知っている野球選手が、暴力について話している記述を立て続けに読むと、胸が苦しくなる思いがした。
学生野球協会は、大学、高校野球の不祥事に対して定期的に処分を科して発表している。近年、選手同士の暴力事件は減少傾向にある。中村氏は少子化、野球離れによって選手数が減少し、レギュラー争いなど、競争のプレッシャーが減っていたことが背景にあるのではないかと言う。
一方で、指導者による体罰、パワハラは依然続いている。最近も甲子園に出場するような有力校の指導者が暴力を加え謹慎処分になった。
指導者による「体罰」がなくならない背景
指導者のパワハラ体質の背景には、「軍隊上がりの指導者が、部活を指導するようになってから体罰が増えた」ことがあるとされる。しかし今ではそうした世代はリタイアしているはずだが、指導者の暴力、パワハラ体質はなくなっていない。
「体罰の話をすると、必ず『暴言とか罵声は体罰なんですか?』と聞かれるんです。体罰は身体的な苦痛を与えることを目的とするから、罵声怒声は体罰ではないという見方もあるでしょう。しかし結局、嫌がらせをして自分の言うことを聞かせるという点で機能は同じで、そういう意味では、指導の本質があんまり変わっていないんですね。
力を振るわなくても、暴言や無茶な『罰走』みたいな形で、形を変えて同じ機能を持つ指導が今でも続けられているんですね。だから、軍隊上がりの指導者はいなくなったけど、体罰の再生産は続いていると。同じ機能を持つ別のやり方を見つけているだけ、というのが実態ではないでしょうか?」
野球人口が減少しても、体罰、暴力を「再生産」する仕組みが残されているとすれば、子どもたちが本当に「野球を楽しむ」ことができる環境を作るためには、どうすればいいのか?
パワハラ体質の指導者は淘汰される仕組みを
実は、中村氏は自身の子どもが入っている少年野球チームの指導者でもある。中村氏にとっては切実な問題でもあるのだ。
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