「中国が最も恐れる男」が見据える対中関係の急所 「異能外交官」垂秀夫・前中国大使がズバリ提言
東洋経済オンライン / 2024年1月24日 7時50分
2020年9月から2023年12月まで在中国大使を務めた垂秀夫氏は、中国の各界に深い人脈を持つ。対中インテリジェンスの第一人者として数々の武勇伝で知られ、アグレッシブな仕事ぶりから「中国が最も恐れる男」との異名をとった(参考記事:中国を知り尽くす異能の外交官 垂 秀夫 新中国大使)。
ともすれば「対中強硬派」と見られがちな垂氏に日中関係について見立てを問うと、独自の視点からの答えが返ってきた。
今は「3度目の日本ブーム」だ
ーー中国大使在任中は「中国が最も恐れる男」と言われました。民間人となったいま、日中関係の課題をどうとらえますか。
【写真】垂秀夫氏は2020年9月から2023年12月まで在中国大使を務めた
日中関係の基礎は経済交流と人的往来だ。とくに私は人的往来、なかでも中国から日本への人の流れに注目している。いま中国人が日本に大勢来ているが、私はこれを近代史で3回目の「日本ブーム」ととらえている。
アリババ創業者のジャック・マー(馬雲)氏などの有名人も日本に生活拠点を持っていることが知られている。この現象を、歴史を踏まえて観察することが必要だ。
ーーそれぞれ、どういうブームだったのでしょう。
1回目は、日清戦争が終結した1895年ごろに始まった。1898年に戊戌変法(清朝政府の体制内改革運動)が失敗すると、康有為、梁啓超などの改革派が日本に逃れてきた。孫文、黄興をはじめとする革命派も日本を拠点とした。
1905年に科挙が廃止されたことも、行き場がなくなった知識人が新知識を求めて日本にわたる要因になった。明治維新の経験に学ぼうとする、そのうねりが辛亥革命(1911年)を実現したし、さらには日本に留学した陳独秀、李大釗(り・たいしょう)を創始者に含む中国共産党の建党にもつながっている。
なかでも中国で革命の父と尊敬されている孫文は、日本との縁が非常に深い。2023年の11月に北九州市にある「旧安川邸」で、中国から送られた孫文像の除幕式が行われた。安川電機創業者の安川敬一郎は辛亥革命の前後に孫文を資金面で支えた人物だ。私も大使として、式典のためのビデオメッセージを送った。
当時の政府が総じて「ことなかれ主義」だったのに対し、民間には頭山満、宮崎滔天のような運動家から犬養毅などの政治家まで、中国での新しい動きを支援する人物がたくさんいた。100年以上前のできごとだが、こうした人のつながりが今に生きている。日中関係を動かす極めて重要な要素だ。
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