VisionPro予約で見えたアップルの"大きな賭け" 大規模投資の先に見据える「独り勝ち」の未来
東洋経済オンライン / 2024年1月26日 11時40分
28種類ものライトシールがあることを考えれば、これをアメリカ全土の(そしていずれは世界中の)直営店舗に展開するだけでも、かなりの“高カロリー”な準備だ。それだけ「現実に近い感覚の視野」と「長時間使用した際の快適性」を重要視していることがうかがえる。
まだ市場が確立していない“空間コンピュータ”という新しいジャンルを確実に離陸させるため、できうることは何でもトライしようということだろう。
振り返ってみると、アップルはVision Proを実現するまでの間に、既存製品の枠組みの中で実に多くの開発を行ってきた。
世界トップクラスの半導体技術、AR(拡張現実)、AIのデバイス内処理、空間オーディオ技術、深度情報を持つ写真、動画を撮影するカメラ技術。いずれもVision Proを成立させるために必要不可欠な要素だ。
価格は3600ドル(日本円換算でおよそ50万円)からと、高額な設定だ。600グラム以上もあるこの製品を多くの人が使う様子を想像すると、それはSF映画のディストピア(暗黒世界)が訪れたようでもある。
大きな賭けであることは確かだ。しかしアップルは、決してリスクが大きいとは考えていないのではないか。むしろ、テクノロジ業界でよりいっそう際立った存在になるために進むべき道だと考えているに違いない。
GAFAMなどの呼び方で一括りにされることの多いアメリカのビッグテックの中でも、この製品プラットフォームを1社だけで構築できるライバルは思い浮かばない。緻密なハードウェアを設計・構築し、独自の販売網とアプリによってオーダーメイドに近い製品をオンライン流通させられる企業が他に想像できるだろうか?
緻密かつ膨大な投資により、やっと到達した空間コンピューティングへの”入り口” に、アップルは躊躇なく飛び込もうとしている。今後も空間コンピューティングの基盤を確たるものにするには、いくつもの困難が待ち受けているだろう。
近年のアップルに足りなかった感覚がある
しかし振り返ってみてほしい。
初代iPhoneが登場したとき、タッチパネルを採用した小さな板状の端末を、世界中の誰もが使うようになると想像した者はいなかった。アップルでさえ、iPhoneがこれほど普遍的存在になるシナリオを語ることはできなかっただろう。
iPhoneを現在の地位に押し上げたのは、ツイッターやUber、モバイル決済などを実現した開発者にほかならない。
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