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「やりたいことは副業で」と盲信する人が陥る罠 副業でも、やりがい搾取されることは十分ある

東洋経済オンライン / 2024年1月31日 12時20分

私はみくりの問題は、現代の「副業」について考えるうえでも、大きなヒントになると思っている。

つまり、副業こそ「本業ですでに稼いでいるから、いいじゃん」「友達同士で頼んでいるんだから、いいじゃん」と、やりがい搾取されやすい立場にあるのではないだろうか?

実際、前回お話を伺ったデザイナーの飯塚さんは、みくりと同じような問題を抱えていたのだ。金銭の交渉は、どうにも「小賢しい」と思われそうで、印象が悪くなりそうだから控えがちになってしまう。そんな悩みを持っている人は、みくり以外にもたくさんいるのではないだろうか。

これについて、2023年に刊行された副業を推進する書籍『やりたいことは「副業」で実現しなさい』(下釜創、ダイヤモンド社)を参照してみよう。本書は、本業の正社員にやりがいを求めるのではなく、副業でやりがいのある仕事をすることで、やりたいことを仕事で実現することを薦める本である。つまり前回話を伺ったデザイナーの飯塚さんが述べていたことと同様に、仕事でやりたいことを実現するために副業を使おう、というのだ。

帯文には、こうある。

「本業」を保険にして、「副業」で自己実現をはたす、幸せな働き方のすすめ。

――たしかに言いたいことはよくわかる。なぜなら私自身、そのような考え方で副業をやっていた人間だからだ。本業はIT企業の転職しやすそうでお給料も安定しそうな仕事、一方で副業では自分のやりたいことをやれるような仕事。それこそがいいバランスなのではないか、と。

本書は本業で「やりがい」を求めないほうがいい理由のひとつに、本業にやりがいばかりを求めすぎると「やりがい搾取」の罠にはまってしまうからだと指摘する。

「やりがい搾取」とは、社会学者の本田由紀が名付けた、安定雇用や賃金以外の「やりがい」を提供することで不当に労働力を動員させようとする企業のあり方である。本田はこれについて、安定雇用や賃金の提供なしに労働力がほしい企業と、「やりがい」を求める若者がいることの双方が作用して生まれた状態だと述べている。

「うちはお金を稼ぐことが出来ないバイトです。でも夢を持つことの重要性を感じ、自分自身が成長したことを感じることが出来ます」という副社長の発言があったことを思い起こしてもらいたい。安定雇用や賃金などの即物的対価以外の目的で働いてくれる「自己実現系ワーカホリック」たちは、企業による「〈やりがい〉の搾取」の好餌となっているのである。
そして、若者たちのなかにも、こうした「〈やりがい〉の搾取」を受け入れてしまう素地が形成されている。「好きなこと」や「やりたいこと」を仕事にすることが望ましいという規範は、マスコミでの喧伝や学校での進路指導を通じて、すでに若者のあいだに広く根づいている

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