「M-1」より成功した新規事業を、私は知らない 経営学者・入山章栄氏、M-1誕生秘話を読む
東洋経済オンライン / 2024年2月1日 12時30分
令和ロマンの優勝で昨年末大いに盛り上がった「M-1グランプリ2023」。今回で19回目を数えるこの大会は、下火になっていた漫才を立て直すべく、元吉本興業社員の谷良一氏がゼロから立ち上げたものでした。
谷氏がM-1創設の裏話をつづった『M-1はじめました。』は、一つの新規事業の立ち上げ物語として読むこともできます。経営学者の入山章栄氏に本書の読みどころを聞きました。
上司からの理不尽極まりない丸投げ
この本を知ったのは、書評の仕事で候補となる推薦図書に含まれていたときだ。たいていスルーするが、「M-1グランプリ」はもともと大好きだったので読んでみると、これが面白い! まるで「プロジェクトX」のようだった。
【写真を見る】M-1グランプリをつくった元吉本社員がその裏側をすべて語る本
希望する仕事ができずにくすぶっていた社員が、上司から「不振事業をどうにかしろ」と丸投げされる。理不尽極まりないが、パワーのある人には逆らえない――企業では、いかにもありそうな状況だ。
この本の著者も吉本興業の木村政雄常務から急に呼び出され、「漫才を盛り上げろ」という漠然としたミッションを与えられる。
そこですごいのは、まず現場に行ったことだ。机上の空論でパワーポイントの企画書をつくるのではなく、劇場でひたすら漫才を見まくる。そのうちに、いいところや悪いところが見えてくる。
最初は1人で活動しているが、だんだんと仲間が増えてくる。これもよくあるパターンだ。とはいえ、優秀な人ばかりではないし、面倒くさい人もいたりする。
悪戦苦闘する中で、信頼する人(島田紳助さん)のところに相談に行くと、コンテストをやろうと提案される。今さら感のある企画だが、優勝賞金はなんと1000万円! そこには夢がくっついている。まさに島田さんの慧眼だ。
新規事業あるあるが満載
こうして方向性は見えてきたが、スポンサーやメディア探しで難航する。良い製品やサービスを思いついても営業で苦労するのは、新規事業あるあるだ。しかも、本当に斬新な試みであるほど、エスタブリッシュな企業はついてこられない。感度の高い社員がいくら提案しても、取締役会で却下されてしまうのだ。
逆に、手を差し伸べてくれるのは、理解あるワンマン経営者のいる企業だったりする。M-1の最初のスポンサーも、よく名前の挙がる大手広告主ではなく、漫才好きの経営者がいるオートバックスだった。
メディアについても最初から全国ネットとはいかない。動いてくれたのは地方の系列局(朝日放送テレビ)だった。
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