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海外でも「高齢化社会で経済伸び悩む」最大の原因 労働人口の減少が新たなインフレにもつながる

東洋経済オンライン / 2024年2月2日 19時30分

その一方で、わたしたちの経済モデルは自由貨幣〔経済学者シルビオ・ゲゼルが提唱した貨幣制度。時間の経過とともに価値が減るのが特徴〕に近いものを使った延命装置で維持されている。以前は高齢者が老後の資金のために債権を売るので金利が上がると期待することもできたが、今では金利の低下を促すほかの力のほうが強いことが明らかになっている。

民間部門は硬直している

最近「ポスト現代貨幣理論(PMMT)」という言葉をよく耳にするが、この理論によると、公的部門の役割は民間部門が不安定な場合に投資するだけではなく、恒常的に完全雇用に必要なレベルまで需要を増加させることにあるという。

民間部門はあまりにも硬直していて、もはや国の支援がなければ経済を引っ張ることができないからだというのだが、この点は少なくとも部分的に人口動態に起因している。労働市場に入ってくる若者が少なく、出ていく退職者は多く、人口は高齢化している──この3つが重なる環境においては、投資家も労働者も市場が提供する機会ではなく、国が提供する安全に目を向けるようになる。

ゼロ金利あるいはマイナス金利が長く続いた結果、住宅、債券、株式の価格が上昇し、これらを保有している高齢者の富がさらに増加している。高齢者人口は投資に際してより短期で安全な回収を求める傾向にある。

高齢者が新事業を始めたり新会社を設立したりすることはあまりない。高齢者はベンチャー・キャピタル・ファンド〔未上場の新興企業への投資〕や株式市場に投資せずに安全な社債や国債を求めるので、その価格が上昇し、利回りは下がる。

資金調達が容易なので政府は財政赤字を出しても前ほどコストがかからない。また政府が財政赤字を出さざるをえない必要性も増していく。人口の高齢化とともに人々は保守的になり、需要も投資も不十分で、国の介入なしには完全雇用を維持できなくなるからだ。新型コロナウイルス感染症の危機はこうした圧力をさらに強めた。

高齢者人口はリスクの低いプロジェクトにより多くの資本を投じるので、経済はますます失速する。これは日本とドイツで実際に起こっていることで、どちらも世界のものづくりセンターとしての評判を失い、低成長に甘んじている。

高齢化が新たなインフレにつながる?

一方、経済学者のチャールズ・グッドハートとマノジ・プラダンは、高齢化の経済への影響について最近別の見方を提唱した。労働力の減少により賃上げ要求が可能になり、それがきっかけとなって新たなインフレスパイラルに向かうとする見方である。日本がそうならずにデフレのまま推移したのは、1990年ごろから中国と東欧が世界経済に参加したことによって世界の労働供給が著しく増加し、日本がそれをうまく活用できたからだという。

グッドハートとプラダンによれば、インドとアフリカの人口動態は健全だが、中国のように世界の工場になることは難しいと思われ、数億人規模の新しい労働力によるデフレ効果は終わりを告げる。そして世界は労働力不足に陥り、労働者は賃金の引き上げを要求し、それが物価上昇へとつながっていく。

繰り返すまでもなく、人口減少に伴い景気が減速することは間違いないと思われるが、グッドハートとプラダンはその景気減速がデフレではなくインフレを伴うと考えているのである。たしかに世界各地でインフレ率上昇の兆しが見えているが、それが新型コロナウイルス感染症からの立ち直りによる一時的なものなのか、もっと根の深いものなのかを判断するのは時期尚早である。

ポール・モーランド:人口学者

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