戦術の使い手、信長にあって義経になかった視点 歴史の偉人に学ぶ「戦術」の遂行に必要なもの
東洋経済オンライン / 2024年2月5日 16時0分
日本人は「戦略」(政治やビジネスなどを実行するための計画・方法)が好きな民族のように思われます。その割には、「戦術」(争いに勝つための方法)を軽視する傾向が強い。
しかし、当初に立てた「戦略」を遂行するために、刻一刻と移り変わる戦局にあって、積み重ねる作戦が「戦術」です。現場で作戦を遂行するリーダーに、なくてはならない能力といっていいでしょう。
戦術を学べば、今後、新規プロジェクトなどを進めるときに、間違いなく成功の確率が上がるはずです。戦い方、物事の見方、チームワーク活性化の必要性などについて、歴史家で作家の加来耕三氏の新刊『リーダーは「戦略」よりも「戦術」を鍛えなさい』をもとに、3回にわたり解説します(今回は1回目)。
新戦術を駆使した源義経の戦い方
戦術は新しいほう──これまでにない、という意味で──が有利、というのが合戦の大原則です。
すでに知られた戦術であれば、相手も対処のしようがありますが、まったく新しい攻め方に対しては、備えることもできず、一方的にやられてしまうこともありました。
例えば、日露戦争までは海上での戦いは、戦艦同士の大砲の撃ち合いで、その命中率が勝敗を決めましたが、その後、航空機を戦力として用いるようになりますと、いち早く“空”を制したほうが他方を圧倒することになりました。
新しい戦術を駆使して、相手を翻弄した歴史上の武人には、源義経がいます。いわゆる、“鵯越えの逆落とし”で、一の谷の平家の本陣に対して、義経は背後の鵯(ひよどり)越えと呼ばれる急峻な崖を、騎馬隊で駆け下りて奇襲をかけました。
あるいは、“壇ノ浦の戦い”では、従来は合戦においてタブーとされていた船の漕ぎ手を狙い撃ちすることで、平家の水軍の動力を断ち、常勝水軍を打ち破っています。
いずれも、義経の新しい発想から生まれた戦術でした。ではなぜ、彼は誰も思いつかなかった戦い方ができたのでしょうか。
山賊流の兵法で敵を次々に撃破
フィクションで描かれる義経は、京の洛北・鞍馬寺で修行をしている最中に弁慶と出会い、ともに奥州の藤原秀衡を訪ねて、平泉に行ったといわれています。そこで数年間、武士としての教育を受けたとされていますが、どうやら史実ではないようです。
こうしたエピソードの基になっていたのが、義経が生きた時代から200年以上のちの室町時代に書かれた、『義経記』という歴史小説だったからです。
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