「比叡山の焼き討ち」で家臣に示した信長の"哲学" 家臣はなぜ僧兵らを恐れず戦うことができたか
東洋経済オンライン / 2024年2月19日 17時0分
日本人は「戦略」(政治やビジネスなどを実行するための計画・方法)が好きな民族のように思われます。その割には、「戦術」(争いに勝つための方法)を軽視する傾向が強い。
しかし、当初に立てた「戦略」を遂行するために、刻一刻と移り変わる戦局にあって、積み重ねる作戦が「戦術」です。現場で作戦を遂行するリーダーに、なくてはならない能力といっていいでしょう。
戦術を学べば、今後、新規プロジェクトなどを進めるときに、間違いなく成功の確率が上がるはずです。戦い方、物事の見方、チームワーク活性化の必要性などについて、歴史家で作家の加来耕三氏の新刊『リーダーは「戦略」よりも「戦術」を鍛えなさい』をもとに、3回にわたり解説します(今回は3回目)。
メッケル教官も驚いた西軍の敗北
メンバー同士のコミュニケーションが不十分であれば、どれほど有効な戦術を選んでも、勝つことは難しいかもしれません。優れた戦術でも、参加者各人がそれをしっかりと理解していなかったり、やる気がなければ、十分な効果を発揮することはできないからです。
その典型例が、関ヶ原の戦いでしょう。
1885年(明治18年)に来日し、誕生間もない明治日本の、陸軍大学校に教官として着任したプロシア(現ドイツ)のクレメンス・メッケル少佐(陸軍)という人物がいます。
彼は日本陸軍の、指揮官の能力向上に尽くしてくれました。そのメッケルが何人かの学生(選抜された優秀な仕官)を連れて、関ヶ原の古戦場を旅行したことがありました。
東軍と西軍の配置や兵数の説明を受けると、メッケルは即座に「これは間違いなく西軍が勝っただろう」と断言した、といわれています。学生たちから「いえ、西軍は負けました」といわれても、メッケルは「ありえない」と納得しません。
地勢(高低・起伏の状態や山、川、平野の配置などからみた、その土地全体のありさま)上、西軍が敗れるはずがない、とメッケルは言います。「実は西軍には、多くの裏切り者が出たのです」と説明されて、ようやく納得したといいます。
家康の本陣を狙える場所に布陣した西軍の毛利軍1万5000の将兵は、静観したまま動かず、同じく西軍の小早川秀秋率いる1万6000の兵は東軍に寝返って、西軍を攻撃。東軍の調略による戦術で、合戦場に来る前から西軍は切り崩されていたのでした。
戦術では優れていても、きちんと運用できなければ絵に描いた餅に終わることを、関ヶ原の例はわかりやすく教えてくれます。
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