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重度障害者を支える元パナ技術者開発のスイッチ 「アメリカ製品の廃番」の危機を受けて製品化

東洋経済オンライン / 2024年2月25日 8時0分

例えば、脳性マヒやパーキンソン病の患者。指先の震えが止められず、安定して押せないことも多い。ただ、力はグッと込められるので、誤入力を防ぐために小型で固いスイッチが適している。アメリカメーカー製の「トリガースイッチ」という商品が、医療や福祉の現場で広く使われていた。

ところが、2021年11月にこの商品が廃番となった。市場規模の小ささから採算を取りにくいために、国内で似たような物を作っているメーカーも皆無。「一部の患者にとっては『唯一無二』の存在でした。何とかしなければ、皆さんの生活が立ちゆかなくなってしまう」(松尾社長)。

こうした危機感から、松尾社長は代替品の開発を決意。クラウドファンディングで資金を募ると、309人の支援者から約350万円が集まった。

松尾社長は、握り込める板状スイッチと、わずかな力で押せる小型スイッチも併せて製作することにした。

これらも一部の症状を有する障害者には極めて有効だが、大量生産しても儲けは出ない。切実な需要がある一方、経済的な観点から商品化が見送られてきたと言える。

「これまではヘルパーや患者の家族が、100円ショップのプラスチック製ケースなどで手作りしていました。操作感にばらつきが生じ、供給も安定しません。しっかりしたスイッチがないことが、結果的に支援機器の普及を妨げてきたのです」(松尾社長)

スイッチは内部の機構部分と外側のカバーで構成される。松尾社長は東京・秋葉原の部品ショップを駆け回ったり、さまざまなメーカーから取り寄せたりして、大量の機構部分を入手。それらを一つずつ分析し、最も適した3種を選んだ。

カバーは3Dプリンターで試作し、その数は500以上に及んだ。設計しては機構部分をはめ込み、押してみる。単純な作業を延々と繰り返した。

3種のスイッチは異例のヒット商品に

重度障害者の中には、数ミリしか指を動かせない人もいる。それでも安定して使用できるよう、0.1ミリ単位の微調整を進めた。約10カ月かかり、納得のいく品が完成。これを基に加工業者へ金型を発注し、生産体制を整えた。

3種のスイッチを各1万1000円(税込み)で2022年11月に発売すると、優れた操作性が評判となり、1年間で計約400個を出荷。「年間で数十個出れば良いほう」(松尾社長)という世界で、異例のヒット商品となった。

冒頭で紹介した太田メリサさんが使っている「ハーフスイッチ」は、この3種のうちの1つ。約10グラムの圧力で押せる軽さが特徴だ。

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