「不適切〜」中盤での急転直下でこれから起こる事 震災描いてきた宮藤官九郎が対峙しているのは
東洋経済オンライン / 2024年3月1日 18時0分
タイムスリップものなので、1986年から来た小川のほうが若々しくて、2024年のゆずるのほうが老けている。1986年から2024年にタイムスリップしている小川は、1987年から2023年までが空白である。
ゆずるとの話で、純子は女子大生になったとき、ディスコで黒服のゆずる(若い時代は錦戸亮)と出会い、結婚を考えるようになったこと、小川はそれを認めなかったこと、でもやがて心を開いた瞬間があったことを、小川は知る。それが1995年1月17日の早朝であった。
例えるなら『シックス・センス』(1999年)的驚き。それまで、ドラマの中で叫ばれてきた不適切な問題なんて吹っ飛ぶような展開に、鬼の首をとったようにドラマの不適切な問題点を指摘していた者は、己の首をすくめたのではないだろうか。
コメディ作家という印象の強かった宮藤官九郎が『あまちゃん』以降、社会派なものも描けるという認識が広がって、その後、大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019年)でオリンピックを題材に昭和史に挑んだ。これには賛否両論があったがそれはさておく。『いだてん』では関東大震災が描かれ、『あまちゃん』『いだてん』『不適切〜』は宮藤官九郎の震災3部作と呼ぶ声もSNSであった。
宮藤がディズニープラスで企画、脚本、監督した『季節のない街』(2023年、原作:山本周五郎)は震災とは明言せず、「ナニ」と呼ばれるある出来事によって12年もの間、仮設住宅で暮らすことを余儀なくされた人たちの物語で、これはかなり社会派感の強い作品である(でも登場人物のおもしろさにフォーカスされている)。
また、宮藤は『木更津キャッツアイ』シリーズ(2002年)や『俺の家の話』(2021年)などで“死”というものを何度も描いている。死をどういうふうに捉えるか、従来の手つきとは違う角度で描こうとトライしてきた作家である。
関東大震災も阪神・淡路も、それ以外にも熊本地震や直近では能登半島地震もあって、どこかで誰かが災害の被害に遭っている。そこで失ったものははかりしれない。私たちはそれぞれの喪失に思いを致さなくてはならない。そういう意味では、次第に遠い記憶になりかかっている阪神・淡路大震災について、30年の節目に改めて振り返ることも大切なことだろう。
自分の「運命」を知った小川はこれから?
もはや視聴者の興味は、1995年に起こることを知ってしまった小川がこれからどうするだろうかということだ。未来を事前に知ることができれば、悲しい出来事を回避することができるのではないか。でもそうしたら、いろんなことが変わってしまう。それが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)をはじめとしたSFでおなじみのタイムパラドックスだ。
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