「不適切〜」中盤での急転直下でこれから起こる事 震災描いてきた宮藤官九郎が対峙しているのは
東洋経済オンライン / 2024年3月1日 18時0分
自分たちだけ助かればいいというわけではないし、それでも大事な人を救うことは不適切ではないはずーーなどとドラマを見ながら妄想はどんどん膨らむわけだが、宮藤官九郎はきっと斜め上の展開を用意しているに違いない。
例えば、第1話で、渚(仲里依紗)の母が1995年阪神・淡路の年に亡くなったと語られたとき、1986年の小川は「ありがとう覚えとく」と言っていた。とすれば、この時点で歴史はすでに変わっているのではないか。
そこで思い浮かぶのは、1983年に大ヒットした大林宣彦監督の『時をかける少女』である。
『不敵切〜』の第1話で、純子が「『狙われた学園』とか『時をかける少女』に出てた」と尾美としのりの話題を出していた(『ねらわれた学園』には実際は出ていない)。『不適切〜』では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がフィーチャーされているが、80年代SFだったら『時かけ』も外せない。
『時かけ』の主人公の芳山和子(原田知世)はタイムリープ能力が備わり、地震が起こることを事前に知るエピソードがある。そのとき、彼女は同級生のゴロちゃん(尾美としのり)の元へと向かい……。
宮藤は悲劇とどう対峙するのか
『不適切〜』の第5話では「土曜の午後」「土曜の午後」と八嶋智人が言っていたが、『時かけ』では「土曜日の実験室」がキーワードであった。そして、『時かけ』が公開された年、日本海中部地震があったのだ。
いつの時代でもどこでも、悲しい出来事は起こっている。年々、悲しい出来事が積み重なっていくばかりで途方に暮れるし、災いを事前に知ったらきっと誰もがタイムパラドックスなんて無視するだろう。宮藤官九郎はいま、どうやって人類に課せられた大いなる問題に対峙するのだろうか。どんなふうに飛翔してくれるのか期待は高まるばかりだ。
ところで、古田新太は、いるだけで作品の格が上がる名優なので、老けた息子の奇妙なおかしさを倍増させていた。とりわけ、1995年のゆずる(錦戸)と、2024年のゆずる(古田)が、歌いながら義父のスーツを仕立てる場面は、しっとりしたいい場面だった。
第4話までは、ミュージカルシーンは、ともすれば説教くさくも感じる社会へのメッセージを歌と踊り仕立てにすることで、親しみやすいものになっていたが、第5話ではメッセージ性はなりを潜め、ただ、生真面目に、義父のためにスーツを仕立てる男の思いの歌なのである。
仕立て屋になりたてのゆずるが一所懸命、1つひとつ工程を確認しながら作っていく。そして、30年後のゆずるは、熟練の腕前になっている。同じ歌に新人から熟練への時間の経過が滲むという、見事な脚本。筆者はここに、ひたむき丁寧に作ることの尊さを感じた。
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