認知症の母が同じものを何度も買ってしまうワケ 認知症の「なぜ?」がわかり、介護が楽になる
東洋経済オンライン / 2024年3月2日 19時0分
見た目にもすでに傷みが進んでいた刺身を見て、山本さんは思わず、お母さんを責めてしまったそうです。
「なんで食い終わっとらんとに、同じもんば買うてくると?」
「ムダにして、もったいなか!」
決して消えない幸せな記憶
そのときお母さんは、うつむいたまま、
「あんたが来ると思って、買うたったい」
と小さな声で答えたといいます。
それを聞いた私は、山本さんに「もしかして、練りものや刺身は、山本さんの子どもの頃からの好物だったのではありませんか?」と尋ねました。
すると山本さんはハッとして、
「たしかに、子どもんときから、練りもんとか刺身とか食いよったです……」
と答えたのです。
そして刺身の盛り合わせは、お客さんが来たときや、毎年家族でお正月に食べるのが恒例だったと教えてくれました。
それから、冒頭に書いたように、山本さんは泣き崩れたのでした。
お母さんは、自分が食べるために練りものや刺身を買ったのではありません。
お母さんは、自分が買ったことは忘れても、幼い山本さんが、かまぼこやちくわやつみれといった練りものをおいしそうに食べていたことや、お正月にみんなで刺身の盛り合わせを食べた、家族の幸せな時間は覚えていたのです。
いつ帰ってきてもいいようにと、買い物に行くたびに毎回練りものを買い、2週間刺身に手をつけないまま、息子のことを思い、冷蔵庫で保存してくれていたお母さんがそこにいたのです。
かまぼこに賞味期限はあっても、愛情に賞味期限はありません。
現実問題としては、買い物の日を決めて、買い物リストを一緒につくり、買い物の前には冷蔵庫の中を一緒に片づけるなどの対応が必要かもしれません。
でも、不可解で奇抜に見える行動には、理由がある場合があります。
認知症になった家族にイラッとし、思わず責めてしまいそうになったら、一度落ち着いて、「なぜそうしたのか?」に思いを馳せてみてください。
その背景にある認知症の人の思いに触れると、沈みがちだった暗い気持ちがほっこりと温かくなり、一気に晴れ上がることがあります。
沈んだ気持ちを「晴れ」にするのは「ボケ」と「ツッコミ」
80歳の藤田さんは、ある日私にこんなことを言いました。
「じゃんけんのパーと一緒。頭がパーだけん、しょうがなかね」
認知症になると、「私、バカになっちゃった」「あんぽんたんだから」など、自虐的な表現をする方が結構います。私も一瞬、どう切り返すか迷ったのですが、
「藤田さんはパーですか……じゃあ、私はチョキを出しますね」
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