江戸幕府が唯一公認した「人気の賭け事」その正体 碁や将棋、双六といった勝負事での賭けは厳禁
東洋経済オンライン / 2024年3月9日 18時0分
その後、当たり札をめぐって悲喜交交のドラマが展開されるのが、お決まりのパターンだ。1等賞に相当する一の富は、100両から1000両まで、けっこう幅があった。次いで2等賞の二の富、3等賞の三の富となる。
現代と同じく前後賞(「両袖附」)や組違い賞(「合番」)、組違いの前後賞(「合番両袖」)まで設定することもあった。主催者があれこれ知恵を絞り、購買意欲を高めようと狙っていたことがわかる。
富突はどれぐらいの頻度で興行されたのか。最盛期には、江戸だけで2日に1度ぐらいの割合だった。いかに、江戸っ子に人気のギャンブルであったかがわかる。
一獲千金を夢見て富札を買った江戸っ子にとっては、当選金もさることながら、富札の値段が一番の関心事だったはずだが、その値段にはかなりのばらつきがみられた。
「江戸の三富」と称された感応寺・湯島天神・目黒不動が発行した富札は1枚あたり金2朱というから、1両の8分の1にあたる。現代の貨幣相場に換算すると、1万円以上となるため、庶民にはかなりの高額だった。
他の寺社の場合はその半額にあたる金1朱、さらに安い銀2匁5分という事例が多かった。5000~6000円ぐらいだろう。現在、宝くじは1枚300円が相場であるから、いずれにせよ高額だ。
江戸っ子にしてみれば、奮発して1枚買うのがせいぜいである。そのため、数人から数十人で共同購入する事例が多かった。この購入方式は「割札」と呼ばれた。発行枚数は富札の価格と連動しており、富札が高額ならば枚数は3000~5000枚、低額ならば数万枚だった。
幕府の責任逃れを理由に許されていた「富突」
幕府公認の興行であるため、主催する寺社の名前、富突を行う場所や日時、富札の販売期間などの情報が、町奉行所から江戸の町に向けて布告されることになっていた。この御免富の制度がスタートしたのは享保15年(1730)のことである。
なぜ幕府は、こんな射幸心をあおる興行を認めたのか。それは、寺社造営費用を賄うためである。幕府の財政に余裕があれば堂社の整備費を補助できたかもしれないが、折しも将軍吉宗による享保改革の真っ只中だった。
幕府の財政難を背景に、支出を大幅に切り詰める倹約政策が断行中であった。よって、幕府は寺社に富突を許可して整備費を集めさせることで、みずからはその負担から逃れようとしたのである。御免富の制度とは、みずからの懐を痛めないで済む巧妙な寺社助成策に他ならなかった。
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