青くてエモい「ブルーライト文芸」大ブームの理由 「田舎の夏、ヒロインが消える」物語なぜウケる?
東洋経済オンライン / 2024年3月9日 7時0分
堀と同じく、梶井も肺結核を患い、31歳の若さで没した作家だ。治療法がまだ発見されていなかった当時は、言うまでもなく『不治の病』だった。
「この作品では、目の前の桜がこんなにも綺麗なのはその下に屍体が埋まっているからだ、と主人公が自分の中で納得のいく説明をしている。
ここで重要なのは、屍体が埋まっている”のに”綺麗なのではなく、屍体が埋まっている”から”綺麗なのだ、と結論を転倒させている点です。
つまり、ある条件下においては、ヒロインの消失や不治の病という切なく悲しい負の要素が、世界をより輝かせてしまう。そういった負から正へのダイナミズムが、「エモさ」のコアでもあると思います。
その題材として桜が使われているのも面白い。そういえば、『君の膵臓をたべたい』の表紙は桜が使われていますし、ヒロインの名前も『さくら(桜良)』ですよね」
儚いものの象徴として「桜」が使われることは、日本文化の常套手段である。その系譜にもブルーライト文芸は位置づけられるのかもしれない。
また、「ヒロインの消失」でいうと、例えば『源氏物語』などもその系譜に入ると筆者は感じた。
主人公・光源氏が愛した女性は、ことごとく作中の中で亡くなったり、あるいは光源氏の元から去っていく。ブルーライト文芸が描くモチーフは、日本人にとって非常に理解しやすく、また伝統的に描かれてきたモチーフなのではないか。
ブルーライト文芸は今後どうなるか
このように、日本人の感性を否応なく刺激するものを描きつつ、勃興してきたブルーライト文芸。今後もこうした文芸作品は流行していくのだろうか。
「実際に、実写映画化される作品がどんどん決まっていますね。その需要がある限りは続いていくのではないでしょうか。今年は『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』が映画化されるようで、楽しみです。
また、個人的にはブルーライト文芸はある程度、話のパターンが決まっているからこそ、作者がどのようにそれを描くのかが多様で面白いです。ヒロインが消失するというテーマをいろんな素材で書いているから、作家性がよく出るんですよ。
最近読んで面白かったのは『余命100食』(湊祥著)という作品です。
これは、ヒロインが死ぬまでの間にどんなものを食べるのかという『病』と『グルメ』を掛け合わせたもので、タイトル的には明らかに、ブルーライト文芸における傑作である『余命10年』(小坂流加著)を意識しているのですが、ライト文芸で元々人気だった「グルメ・食」を掛け算するのは試みとして新しいし、作品としても面白いんですよ」
ブルーライト文芸を、一種の流行として片付けるのは簡単だ。
しかし、その歴史を紐解いていくと、2000年代から2010年代、さらにそれ以前と、日本文学の伝統に位置づけられる深みを持っていることがわかる。
まだまだ勃興したばかりのジャンルではあるが、それらを紐解くと、日本文化のある部分が見えてくるかもしれない。
インタビュー後編では、ブルーライト文芸に見られるもう一つの特徴、「強い個性のないキャラクター」について、引き続きペシミ氏に伺っていく。
谷頭 和希:チェーンストア研究家・ライター
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