世界が憧れる京都「西陣織」はエルメスになれるか シャネル幹部も感涙する「美」その魅力と課題
東洋経済オンライン / 2024年3月9日 10時30分
旅行や留学などがわかりやすいが、「テレビやネットで得た情報」と「五感を使った体験」では、得られる情報量が大きく違い、それは体験者の真の血肉となる。
シャネル幹部の多くは作品を見て涙を流し、現在、京都の国際イベントにおけるシャネルが協賛した作品の展示場として、誉田屋に場所を求めている。
また、ロンドンの中心街、世界中の歴史的価値のある装飾芸術やデザインを所蔵しているヴィクトリア&アルバート博物館には、十代目山口源兵衛氏の帯も永久貯蔵されている。
20人の職人が腕を振るう誉田屋では、年300本ほどの帯商品の生産の傍ら、非売品のアートとも言える「作品」を年1~2本作成している。
商品も作品も、作家の情熱や想い、職人たちの汗と努力など、さまざまなストーリーが織り込まれる一点物であるが、年1本の作品へ投入される熱量は桁違いだ。
十代目は、同美術館でのパネラーとしてイギリスに招かれており、人類における衣類というテーマについて聴衆の前で識者と議論を交わした。
「美術館や博物館に作品が所蔵される」とは何を意味するのか。その作品が「美術史や人類史の歴史にとって重要なもの」という、キュレーターや学芸員の判断があったということである。
源兵衛氏は、ヴィクトリア&アルバート博物館への訪問時に、そこに展示されている世界の数々の織物を目にして「ひいき目と言われるかもしれないが、日本の織物の質の高さや歴史は、人類の衣類の中でも飛び抜けた存在である」ことを改めて認識したという。
源兵衛氏は、衣食住の「衣」の本質を後世に伝えるべく、京都の地元の中学・高校を誉田屋に招くなど、学生向けにもさまざまな機会で日本の和装などの歴史文化の啓発を続けている。若い頃から、一流に触れる機会があることは心からうらやましく思う。
「孔雀の羽を織り込んだ帯」が過去と未来をつなぐ
築100年の古商家の立派な柱と梁を横目に誉田屋の2階に上がると、息をのむような美しさと、色とりどりの光沢のある「帯作品」が並ぶ空間にたどり着く。
ここには十代目山口源兵衛氏の過去50年の作品の中でも指折りのものが展示されている。
その中でも一際に目を引くのは、見る角度により色や輝きが変化する魅惑的な緑色の帯、「孔雀の羽の繊維を数万本織り込み、2年の歳月を経て完成した唯一無二の作品」である。
日本は元寇の襲来時に毒矢を知り、その後、毒への耐性が強い孔雀は武士の憧れとなった。
上杉家や井伊家の当主などが使用したと考えられる孔雀の羽を織り込んだ陣羽織が現存しているが、状態が著しく悪化しており、衣類に刻まれた当時の武士たちの生きざまを未来へ引き継げなくなっていた。
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