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世界が憧れる京都「西陣織」はエルメスになれるか シャネル幹部も感涙する「美」その魅力と課題

東洋経済オンライン / 2024年3月9日 10時30分

山口源兵衛氏と職人たちは、2年の歳月をかけて、10cm以下の短い孔雀の羽を何万本も織り込むことで、当時の戦国武将の戦いへの想いや風俗を現代に蘇らせたのだ。

「職人たちへの負担が重すぎる。私の代では二度と同じものは作れない」。ただし、この帯の製作により、日本の過去と未来は確実につながったのだ。

山口源兵衛氏は「衣類とは、かつては大地の命を受け取るものであった」「過去、衣類は極めて貴重な代物であり、それぞれの時代の風俗や文化が織り込まれている生命である」と語る。ファストファッションの時代に身を置いている我々には、身につまされる話である。

山口源兵衛氏が帯の作品にする題材は、過去の衣類の復活にはとどまらない。

藤田美術館所蔵の国宝曜変天目茶碗、俵屋宗達の作品、外国の美術品まで、価値あるものを帯という横幅32cmの世界へ表現し、過去と未来の人類の芸術を紡ぎ、また西陣織の技術をさらなる高みへと押し上げている。

かつては小さな馬具メーカーであったエルメスは、車社会の到来により革製のバッグや高級の衣類などへ方向転換をし、世界的なラグジュアリー企業へと躍進した。

特にここ数十年、同社の高級カバンは、中古品の価格が新品より高まるほど、消費者からの熱いパッションを集めている。

バーキンを手に入れるのは数年待ちが当たり前、幻と言われるワニ皮の「ヒマラヤ」の取引額は2000万円にも及ぶという。

「消費財に資産性を持たせる」というイノベーションを起こしたエルメスの企業価値は、日本首位のトヨタ自動車のそれにまで近づいている。そしてその価値の根底にあるのは、熟練した職人を従えた「美の追求」にある。

さらなる「美への追求」が「次なるエルメス」を生む

世界のトップラグジュアリー企業が憧れてやまない西陣織から、「次なるエルメス」は生まれるのだろうか。

上記の例だけでなく、世界中の人々のパッションを惹きつけるポテンシャルは間違いなくそこにあるだろう。

現実、着物1着ではなく、たった1本の「帯」が数百万円で購入されていく事実は、織元と職人、帯を身につけたい人々のエコシステムの熱量が途方もないことの現れである。

源兵衛氏の非売品の作品は「最高の技術や想いを伝承できるよう、なるべく職人の近くに置いておきたい」という山口源兵衛氏の想いから市場には出回らないものの、仮に売りに出されれば、その価格は青天井となるだろう。

もちろん、西陣織の織元が現在の欧州ラグジュアリー企業のようにビジネス面で洗練され、世界の人々をファンとするには、帯以外の商材の拡充から流通の見直しまで、さまざまな課題がある。

ただし、最も大切と思われる「伝統に甘んじず、絶えず『美』を追求する情熱」は、京都の西陣にはDNAとして根付いている。

私は日本人のひとりとして、この「西陣織の美」を世界のより多くの人々が認知し、同時に日本の技術と伝統が世界へ羽ばたくことを願ってやまない。

加藤 航介:WealthPark研究所代表/投資のエバンジェリスト

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