危機を迎えるたびに「より強くなる」100年企業 元中小企業庁長官が語る「老舗の耐久力」
東洋経済オンライン / 2024年3月11日 8時0分
調査をした2021年はコロナ禍のまっただ中で、多くの企業が業績悪化に苦しんでいたが、驚く結果が出た。
売上高営業利益率は100年企業が1.07%、全業種は▲0.02%で2008年当時から100年企業が逆転した。売上高経常利益率は100年企業が3.05%、全業種は2.50%と当時の差がさらに広がっていた。2008年当時と変わらないのが土地・建物といった営業外収益の存在だ。本業が苦しい時には、やはり営業外収益が経営を下支えしていたことがわかる。
もう一つ目を引いたのが、経営の安定性を示す自己資本比率だ。2008年当時、100年企業の自己資本比率は28.65%、全業種は26.81%と大差がなかったが、2021年度には100年企業36.76%、全業種は26.91%と実に10ポイントも差が開いた。
リーマンショックやコロナ禍をへて、100年企業はより強くなっていたということだ。100年企業はレジリエンス(危機対応力、基盤の安定力)が高いということがわかった。
100年も事業を継続するうえで、もう一つ重要な要素がある。それは「美意識」だ。
――美意識ですか。
美は自己肯定感の塊。美しいと感じる仕事をしていて鬱病になる人はいない。100年企業が世界で群を抜いて多い日本には、労働の美、経営の美、自然の美があふれている。この点も、多くの日本人は気づけていない。
フランスの社会人類学者レヴィ=ストロースは1977年に来日した際、多数の伝統工芸職人と会い、西洋との労働観の違いに気づいた。
西洋では、労働とは神との接触を失ったために生じた一種の「罰」とされているが、日本では伝統的技術が宗教的感情を所持し、労働を通じて神との接触が成り立ち、維持され続けている。「はたらく」ということは、西洋式の、生命のない物質への人間のはたらきかけではなく、人間と自然のあいだにある親密な関係の具体化だと。
経営の美もある。創業1400年以上を誇る金剛組が行う社寺建築の様式は、時々の時代背景で変化を見せながらも軒の反りや曲線、彫刻などの基礎となる伝統美は変わっていない。その普遍性こそが1000年を超える長寿企業の秘訣と言える。
マルローが語った「式年遷宮」
自然の美でいえば、フランスの作家アンドレ・マルローは1974年、伊勢神宮への参拝で式年遷宮を知り、こういう言葉を残している。
「伊勢神宮は過去を持たない。20年ごとに建てなおすゆえに。かつまた、それは現在でもない。いやしくも1500年このかた前身を模しつづけてきたゆえに。仏寺においては、日本は、自らの過去を愛する。が、神道はその覇者なのだ。人の手によって制覇された永遠であり、火災を免れずとも、時の奥底から来たり、人の運命と同じく必滅ながら、往年の日本と同じく不滅なのだ」
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