日本人幹部を憤慨させた「アメリカ本社」の要求 時に「ドライすぎる」と感じる背景にあるもの
東洋経済オンライン / 2024年3月13日 8時0分
だが、日本企業が国際社会で成功するためには、相手が自分とは違う考えや常識を持っていることを前提とした意識を持つことが不可欠だ。契約書の背景となる相手企業の考えや立場を理解し、それをベースに自分達の意志と相手の意志を文書として「見える化」しておくことが必要となる。
ビジネスの入り口で契約書をきちんと整備することでお互いの思惑のずれをあらかじめ顕在化させビジネスが始まった後で「Unpleasant surprise(予期しない思い違い)」を避けようとするのは合理的な考えだ。これは、文化が違う前提を踏まえれば当然の行為だ。
また、先の事例で「脅しあう交渉」について触れたが、現在日本の中小企業が置かれている材料費、エネルギーコスト、従業員の給与上昇などの価格転嫁の交渉を見たとき、日本の交渉の「非対称性」、つまり大企業が有利な交渉状況の改善の余地がある。
「脅しあう」ことを推奨しているのではない。「部品メーカーが経営危機に陥れば部品供給に支障がでて、結果として自社製品の生産に懸念を生じる」という「論理的帰結」を念頭に置いた価格のあり方と交渉の公平性を日本の大企業も目指してほしい。
2011年の東日本大震災のときのことだ。多くの日本企業も被災し、自動車関連の企業も大きな被害を受けた。私が勤めていたアメリカ企業もそうした被災した企業の部品を使っていたことから部品の調達が滞り生産ができない製品があった。
本社から日本の震災に対する気遣いのメッセージと、日本法人の状況や従業員の安否を気遣うメールと共に次のような指示が来た。
「フォース・マジュール(不可抗力による契約責任の免除)を顧客に伝えて、自社に契約上の不利益が生じないようにせよ」というものだ。
東日本大震災の際に来た驚きの「要求」
この指示に私は、最初は憤りを覚えた。外資に勤めているとはいえ、私は日本人であり、日本を愛する気持ちは強い。いや外資にいるからこそ、日本人のアイデンティティをより強く意識し日本のために仕事をしているという気概を持っている。
この件で本社とやり取りを進める中で、契約上の権利を行使しようとすることは理解できたし、アメリカ本社に悪意はなく、供給責任を果たそうとする真摯な意思も確認できた。本社はけっしてドライなのではなく、ビジネス上の決まり文句を伝えているだけのことだった。
そこで私は、この宣言を顧客にするのではなく、自社の置かれた状況を正確に伝え、供給責任が果たせないことに理解を得た。
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