加速主義が生み出す「頭でっかちな認知エリート」 ナショナリズムがインテリたちに不人気な理由
東洋経済オンライン / 2024年3月15日 10時0分
でも、妊娠の10カ月なんか典型ですけど、絶対解決できないこともある。これはもしかしたら、19世紀ぐらいから始まっていたのかもしれない。産業化が進んで本来の人間らしさから遠ざかっていて、農業をしていた頃のゆったりした時間感覚が失われてきているという話です。
中野:だから、とある元県知事のように「過疎地から移住しろ」と言う人間もいますが、しかし地方のほうが時間がゆったり流れているから、人間的にはいいかもしれない。このように、今の時間感覚の問題って、実はかなり深刻かもしれないなという気がしました。
認知エリートが社会のバランスを崩す
佐藤:過疎地のインフラ復興はコスパが悪い、だから被災者には移住してもらおうというのは、『新自由主義と脱成長をもうやめる』で施さんが取り上げた「エニウェア族」の物の考え方ときれいに重なります。
エニウェア族とは、自分はどこででも暮らしてゆけると思っている高学歴層を指す言葉ですが、被災者移住論はまさにこれ。住み慣れたところを捨てて、見知らぬ土地に移住しても問題は起こらないと構えるわけですからね。特定の地域に根を下ろして生きる人々、いわゆる「サムウェア族」とは発想の根本が違う。
施:エニウェア族、サムウェア族の区分を作ったのはイギリスのジャーナリストであるデイヴィッド・グッドハートという人ですけれども、彼は少し前に『頭 手 心』という本も書いています。そこでは、現代の世の中というのが、まさにエニウェア族的な認知的エリート、つまり学歴が高くて専門職に就いてる人たちが過度に社会的影響力を持っている一方、手を使う仕事――つまり製造業や農業などの仕事――や、心を使うケアの仕事の人々の社会的影響力は小さく、全体的なバランスが崩れていると指摘しています。頭でっかちな認知的エリートの声ばかりが大きくなって、それが時間感覚にも関係しているのかと感じます。
認知的エリートの仕事は、依然と比べ、確かにどんどん速くなっている。昔はメールすらなかったですが、学生など若い世代とやり取りしているとメールすらまどろっこしいという者が多いですね。既読が付かず不安になるので、せめてLINEを使ってくれ、みたいな感じなんです。
池波正太郎の時代小説などを読んでいると、江戸時代は、人と会うためだけに宿に1週間ほど泊まり込んで、その人と連絡が取れるのを待つ描写がよくあります。その後は、手紙、電話、メールなどで連絡を取るようになりましたが、今ではLINEでも即座に反応がないと苛立ってしまう。
この記事に関連するニュース
-
故郷・東北を「かっこ悪い」と感じる自分に困る...「かっこよくなった」沖縄、台湾、韓国との違いは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月8日 11時5分
-
戦後日本のインテリがグローバル化に逃げた理由 「ラテン語」と無関係な日本語の優位という逆説
東洋経済オンライン / 2024年4月25日 8時40分
-
グローバル化が進むと「封建的な世界」になる理由 ナショナリズムこそリベラルな社会の前提条件
東洋経済オンライン / 2024年4月24日 9時30分
-
社会的に優位な位置にいるはずのマジョリティが、自分より不利な位置にいるマイノリティの成功を妬むのはなぜか?
集英社オンライン / 2024年4月22日 11時0分
-
インスタ、X、フェイスブックでドヤっても「あなたの欲望には決して真の満足が訪れない」人が絶えず誇示へと駆り立てられるメカニズムとは?
集英社オンライン / 2024年4月19日 11時0分
ランキング
-
1国購入のコロナ薬、7割未使用 430万人分、廃棄の恐れ
共同通信 / 2024年5月11日 10時5分
-
2コカインを洋酒に混ぜて密輸しようとした疑い ドミニカ共和国籍の男を逮捕 税関の荷物検査で“大量の汗”
ABCニュース / 2024年5月11日 8時0分
-
3南アルプスで行方不明の男性 遺体で発見
Daiichi-TV(静岡第一テレビ) / 2024年5月10日 21時36分
-
4都心の歩道橋に突如「ハチの大群」現れる…なぜ? 専門家は…
日テレNEWS NNN / 2024年5月10日 23時27分
-
5「太陽フレア」が発生、世界各地でオーロラや磁気嵐を観測 GPSなど影響の恐れも
日テレNEWS NNN / 2024年5月11日 15時40分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください