令和の今も作成依頼「デスマスク」への遺族の想い 夏目漱石の死に顔やコロナで逝った少年の手形も
東洋経済オンライン / 2024年3月21日 11時0分
OSINT(オープンソースインテリジェンス)が注目される昨今、人生の終わりに触れられるオープンソースも存在する。情報があふれて埋もれやすい現在において、今は亡き個人の物語を拾い上げて詳細を読み込んでいきたい。
100年前に亡くなった漱石を眺める
2017年に開館した新宿区立漱石山房記念館は、夏目漱石(1867-1916)が晩年を過ごした住まい、通称・漱石山房の跡地に建つ。当時の書斎や庭園を細部にわたって再現しており、文豪の暮らしと仕事の空間を今に伝える。
館の所蔵品のひとつに漱石のデスマスクがある。漱石が息を引き取った直後、門下生の森田草平(1881-1949)が師のデスマスクを取ることを提案し、遺族の同意を得たうえで彫刻家の新海竹太郎(1868-1927)に依頼して制作された。4月21日まで開催している通常展「夏目漱石と漱石山房 其の一」で公開中だ。
当時作られたデスマスクは2つあり、そのうちひとつは夏目家の仏壇の脇に飾られていた。次男で随筆家の夏目伸六(1908-1975)は、子供の頃によくお面代わりに被っていたそうだ。ところが、そちらは1945年5月25日の空襲で家屋ごと焼失してしまった。
現在展示されているデスマスクは、残りひとつの現品である朝日新聞社所有のものから夏目漱石生誕100年を記念して1966年に複製されたものだ。当時の所有者は門下生の松岡譲(1891-1969)。漱石山房記念館名誉館長の父にあたる。
このタイミングで作られた複製品はいくつかあり、東北大学や神奈川近代文学館なども所蔵している。また、二松学舎大学にある「漱石アンドロイド」の頭部も朝日新聞社のデスマスクを3Dスキャンして作られており、後に生まれた複製品のひとつに数えられるだろう。
デスマスクは蝋などで型を取り、そこから石膏やブロンズ製の面を作りだす。まさに死に顔の生き写しだ。漱石のデスマスクを間近に眺めると、額のしわや目じわ、頬骨の隆起具合までありのままに残されているのがわかる。当たり前ながら等身大なので、顔の大きさも伝わる。整った顔立ちと口ひげに、教科書やかつての1000円札で目にしたあの肖像の姿が浮かぶ。
晩年といえども49歳とまだ十分に若く、病床で大きく老け込んだり、死因となった胃潰瘍による苦悶の表情が染みこんだりした感じはしない。最後の最後は穏やかに息を引き取ったのではないかと推測するのに十分な情報が詰まっている。
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